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個人事業主が従業員を雇うとき|届出・保険・帳簿でやること

個人事業主が従業員を雇うとき|届出・保険・帳簿でやること。シメルンノート

はじめて人を雇うことになったが、どこに何を出せばいいのか見当がつかない。

窓口が3か所に分かれているので、一覧が無いと必ず抜けます。

個人事業主が人を1人でも雇うと、税務署・労働基準監督署・ハローワークの3か所に手続きが発生します。

しかも労災・雇用保険・社会保険の3つは、加入が必要になる条件がそれぞれ違います。

「5人以上なら社会保険」と単純に覚えていると間違えます。

この記事では、条文と厚生労働省・日本年金機構の案内をもとに、やることを順番に整理します。

2029年10月から社会保険の対象が変わるので、その話も最後に書きました。

読み終えたら、採用日から逆算して、どこに何日以内に出すかが決まります。

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目次

個人事業主が従業員を雇うときにやること

先に全体像です。

人数や働き方で必要・不要が変わるものがあるので、条件も並べます。

やることどこへ必要になる条件
給与支払事務所等の開設届出書税務署給与を払うなら必ず(1か月以内)
労災保険の成立届労働基準監督署1人でも雇ったら必ず
雇用保険の適用事業所設置届ハローワーク週20時間以上・31日以上の見込み
健康保険・厚生年金の新規適用届年金事務所業種による(飲食業は現在対象外)
労働条件の明示本人へ必ず
労働者名簿・賃金台帳の作成店に備える必ず

注意してほしいのは労災だけが「1人でも必ず」という点です。

雇用保険と社会保険には条件がありますが、労災には人数の下限がありません。

紹介を受けて人を雇い、その対価を払うなら、職業安定法40条が業態を問わずかかります。払える形かどうかはスカウトバックは違法かで確認してください。

個人事業主が従業員を雇ったら税務署へ出す届出

給与を払う以上、源泉徴収をして国に納める義務が生まれます。

そのための届出が最初の1枚です。

給与支払事務所等の開設届出書|1か月以内

期限は条文で明確に区切られています。

国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け……た者は、……その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。

所得税法 第230条

開業届(所得税法229条)とは別の書類で、期限も違います。

開業届は「その年分の確定申告期限まで」ですが、こちらは1か月以内です。

混同されやすいので、開業と同時に人を雇うなら2枚まとめて出してください。

源泉所得税の納期の特例|10人未満なら年2回に

源泉徴収した所得税は、原則として支払った月の翌月10日までに納めます。

ただし給与の支払いを受ける人が常時10人未満なら「源泉所得税の納期の特例」を申請でき、年2回のまとめ納付にできます。

小さな店なら申請しておくと毎月の手間が減ります。

ただし例外があります。

ホステス等に報酬として支払う分は、この特例の対象外です。

特例を申請していても毎月10日納付のままなので、給与と報酬を両方払っている店は納付のリズムが2つ走ります。

詳しくはホステス報酬の源泉徴収にまとめています。

個人事業主と従業員の保険|3つで条件が違う

ここが最も間違えやすいところです。

労災・雇用保険・社会保険はまったく別の制度で、加入条件も根拠法も違います。

ひとつずつ見ます。

労災保険は1人でも雇ったら加入

条文は非常に短く、条件らしい条件がありません。

この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。

労働者災害補償保険法 第3条第1項

労働者を使用していれば適用事業です。

人数も労働時間も関係ありません。

週1回3時間のアルバイトが1人いるだけでも対象になります。

保険料は全額事業主負担で、労働基準監督署へ成立届を出します。

未加入のまま労災が起きると、給付にかかった費用を国から徴収されることがあります。

ここは真っ先に済ませてください。

雇用保険は週20時間・31日以上の見込みから

雇用保険法は「適用しない人」を列挙する形で条件を定めています。

一 一週間の所定労働時間が二十時間未満である者
二 同一の事業主の適用事業に継続して三十一日以上雇用されることが見込まれない者

雇用保険法 第6条(適用除外・抜粋)

裏返すと、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば加入対象です。

夜の店だと、週3日×5時間で15時間なら対象外、週4日×5時間で20時間なら対象、という分かれ方になります。

判定に使うのは「所定」労働時間です。

実際に何時間働いたかではなく、契約で決めた時間で見ます。

だからこそ、雇うときに労働条件を書面で決めておく必要があります。

健康保険・厚生年金は業種で決まる

ここが、飲食店を営む個人事業主にとって一番の分かれ道です。

厚生年金保険法6条1項1号は、強制適用となる個人事業所を業種の列挙で定めています。

厚生労働省はこれを「法定17業種」として整理しています。

①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積卸、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉、⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業

厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト

そして同サイトは、法定17業種以外の業種を明示しています。

農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業、洗濯、理美容、浴場業、娯楽業、デザイン業、警備業、ビルメンテナンス業、政治・経済・文化団体、宗教 等

厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト

日本年金機構の案内も「従業員が常時5人以上いる個人の事業所についても、農林漁業、サービス業などの場合を除いて厚生年金保険の適用事業所となります」としています。

つまり個人事業の飲食店は、従業員が5人以上いても健康保険・厚生年金の強制適用にはなりません。

「5人以上なら社会保険」と一律に説明されることが多いのですが、業種の条件が先にあります。

ただし任意で加入することはできます。

従業員の半数以上の同意を得て申出をすれば、任意適用事業所になれます(厚生年金保険法6条3項・4項)。

人を集めるうえで社会保険があることは強みになるので、選択肢として持っておく価値はあります。

なお自分の店がどの業種に当たるかの最終判断は年金事務所です。

形態によって見方が変わることがあるので、確認してから決めてください。

個人事業主の社会保険は2029年10月から変わる

いま対象外でも、このままではありません。

厚生労働省が予定を公表しています。

現在は、個人事業所のうち、常時5人以上の者を使用する法定17業種の事業所は、社会保険の適用対象とされていますが、2029年10月からは業種に関わらず、常時5人以上の者を使用していれば適用対象となります。

厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト

飲食業も対象に入ります。

スタッフが常時5人以上いる個人経営の店は、2029年10月以降、健康保険・厚生年金の強制適用になります。

社会保険料は労使折半なので、事業主負担が新たに発生します。

人件費の構造が変わる話なので、常時5人前後で回している店は、今のうちから頭に入れておいてください。

制度の詳細は今後変わる可能性があるため、時期が近づいたら最新の案内を確認することをおすすめします。

個人事業主が従業員のために備える帳簿

届出と保険が済んだら、日々の記録です。

労働基準法で作成が義務づけられているものがあります。

労働条件を明示する

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

労働基準法 第15条第1項

賃金や労働時間に関する事項は、厚生労働省令で定める方法(原則として書面の交付)で明示します。

口約束だけで始めると、後で「時給の話が違う」というトラブルになります。

雇用保険の加入判定にも所定労働時間を使うので、決めておかないと判定できません。

労働者名簿と賃金台帳は当分の間3年保存

労働基準法107条が労働者名簿、108条が賃金台帳の作成を義務づけています。

夜のお店の場合は、これとは別に風営法36条の従業者名簿も必要になります。

2つを1つにまとめられる条件は風営法の従業者名簿で整理しました。

保存期間は109条ですが、本則の年数がそのまま適用されていないので注意が必要です。

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。

労働基準法 第109条

条文は「五年間」ですが、附則143条1項が「当分の間、三年間とする」と読み替えを定めています。

いま守るべき期間は3年です。

将来5年に戻る前提の作りなので、迷うなら5年残しておけば確実です。

エクセルで記録を作るなら勤怠管理をエクセルでやる方法を参考にしてください。

採用のときに渡す書面については、労働条件通知書テンプレート(記入例つき)を配布しています。

こちらは労働基準法15条1項の義務です。

双方が署名する形にしたいなら雇用契約書テンプレートのほうを使ってください。

賃金台帳は「賃金支払の都度遅滞なく記入」するものです(108条)。

月末にまとめて作るのではなく、払うたびに書く建て付けになっています。

賃金台帳には深夜労働時間数まで書く

見落とされやすいのが記載事項です。

労働基準法施行規則54条は、賃金台帳に書くことをこう定めています。

  1. 氏名
  2. 性別
  3. 賃金計算期間
  4. 労働日数
  5. 労働時間数
  6. 時間外・休日労働をさせた場合、または午後10時から午前5時までの間に労働させた場合には、その延長時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
  7. 基本給、手当その他賃金の種類ごとの額
  8. 賃金の一部を控除した場合は、その額

夜の店に効いてくるのは6番です。

22時から翌5時に働かせたなら、その深夜労働時間数を賃金台帳に書く義務があります。

「今月は何時間働いた」という合計だけでは足りません。

ここから逆算すると、日々の記録は「何時間働いたか」ではなく「何時から何時まで働いたか」で残す必要があります。

時刻がないと深夜の時間数を切り出せないからです。

20時から翌2時なら、うち4時間が深夜。

これを毎日、人数分数えることになります。

この切り出しは深夜手当の計算ツールで確かめられます。

開業前後の届出全体はスナック開業の手順に、年1回の確定申告は水商売の確定申告にまとめています。

現金で払っていても賃金台帳は要ります。手渡しの店で抜けやすい義務はスナックの給料手渡しにまとめています。

まとめ|個人事業主が従業員を雇うときの順番

  1. 労働条件を書面で決める。所定労働時間を決めないと雇用保険の判定ができない
  2. 労災保険の成立届を労働基準監督署へ。1人でも雇ったら必ず。人数・時間の下限なし
  3. 週20時間以上・31日以上の見込みなら雇用保険。ハローワークへ
  4. 健康保険・厚生年金は業種で決まる。個人事業の飲食業は現在対象外だが、任意加入はできる
  5. 給与支払事務所等の開設届出書を1か月以内に税務署へ
  6. 10人未満なら源泉所得税の納期の特例。ただしホステス報酬は特例の対象外
  7. 労働者名簿と賃金台帳を作り、当分の間3年保存(109条の本則は5年、附則143条1項で読み替え)。賃金台帳には深夜労働時間数まで書く
  8. 2029年10月から、業種に関わらず常時5人以上で社会保険の対象になる

風営法の従業者名簿は労働者名簿と1枚にまとめられます(従業者名簿テンプレート)。

社会保険の加入義務がどこから生じるかは飲食店の社会保険の加入条件にまとめています。

辞めるときの手続きは従業員が辞めたときの手続きで扱っています。

外国人を雇う場合の届出はスナック・ガールズバーで外国人を雇えるかにまとめました。

人を雇うと健康診断の義務も出てきます(深夜業の健康診断)。

個人事業者の消費税は令和9年分から変わります(2割特例はいつまで)。

この記事は条文と厚生労働省・日本年金機構の案内をもとに書いていますが、業種の判定、労働者に当たるかどうか、所定労働時間の考え方は、いずれも個別の事情で結論が変わります。

実際の手続きは所轄の労働基準監督署・ハローワーク・年金事務所、税務は税理士に確認してください。

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