従業員が5人を超えたら社会保険に入らないといけない、と聞いて身構えている。
その覚え方は、飲食店には当てはまりません。
個人経営の飲食店は、従業員が何人いても社会保険の強制適用にはなりません。
厚生年金保険法6条1項1号が挙げる16の業種に、飲食店が入っていないためです。
一方、法人にした瞬間、従業員が1人でも強制適用になります。
2026年10月に「106万円の壁」が撤廃される予定ですが、それが効くのは51人以上の企業です。
この記事では、夜のお店で実際に効く順番で条文を整理します。
読み終えたら、自分の店にいま義務があるのか、法人化したらどう変わるのかが分かります。
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飲食店の社会保険は個人か法人かで決まる
加入条件を考える順番は2段階です。
まず店が適用事業所かどうか、次にその人が被保険者かどうかを見ます。
1段目でつまずくと、2段目は関係なくなります。

飲食店は16業種に入っていない
厚生年金保険法6条1項1号は、個人の事業所について業種を限定しています。
挙げられているのは、物の製造・建設・鉱物の採掘・運送・物の販売・金融・保険・教育・医療・通信などです。
これに当たる事業所で常時5人以上を使用するものが適用事業所になります。
飲食業・宿泊業・娯楽業はこの列挙に無いので、個人経営なら人数に関係なく強制適用になりません。
法人は1人でも適用事業所になる
同じ6条1項の2号が、法人の扱いを決めています。
「国、地方公共団体又は法人の事業所又は事務所であつて、常時従業員を使用するもの」です。
業種の限定も人数の下限もありません。
役員報酬を払っている代表者1人の会社でも適用事業所になります。
個人でも任意で適用事業所にできる
6条3項が任意適用の道を用意しています。
事業主が厚生労働大臣の認可を受ければ、適用事業所にできます。
その申請には、6条4項で使用される者の2分の1以上の同意が要ります。
採用の条件として社会保険を出したい店は、この手続きを取ることになります。
社会保険の加入条件は4分の3基準から見る
適用事業所になったら、次は人ごとの判定です。
ここで先に見るのは、企業規模に関係なくかかる4分の3基準のほうです。
根拠は厚生年金保険法12条5号です。
4分の3以上なら短時間労働者ではない
12条は「被保険者としない」者を並べた適用除外の条文です。
5号が対象にしているのは、1週間の所定労働時間または1か月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3未満である短時間労働者です。
裏返すと、4分の3以上働く人は5号に当たらず、規模を問わず被保険者になります。
週40時間の店なら週30時間が目安です。
4分の3未満なら3つの入口で判定する
4分の3未満の人は、5号のイ・ロ・ハのどれかに当たれば適用除外です。
- イ:1週間の所定労働時間が20時間未満であること
- ロ:算定した報酬の額が8万8千円未満であること
- ハ:高等学校の生徒、大学の学生などであること
どれにも当たらなければ被保険者になりますが、ここに企業規模の話が別途かぶさります。
8万8千円の判定から深夜割増は外れる
夜のお店で効くのがロの括弧書きです。
12条5号ロは「報酬(最低賃金法第四条第三項各号に掲げる賃金に相当するものとして厚生労働省令で定めるものを除く)」と書いています。
その省令が厚生年金保険法施行規則9条の4で、6つを並べています。
五 午後十時から午前五時まで(中略)の間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分
厚生年金保険法施行規則9条の4第5号
22時以降の上乗せ分は8万8千円の判定に入りません。
ほかに、臨時の賃金、1か月を超える期間ごとの賃金、所定労働時間を超える労働の賃金、所定労働日以外の日の賃金も外れます。
同じ構造は最低賃金の判定にもあり、歩合給と最低賃金で扱っています。
社会保険の加入条件は2026年10月に何が変わるか
「106万円の壁」の撤廃が話題になっています。
ただし夜のお店の多くには、当面のあいだ直接効きません。
理由は企業規模要件が残るからです。
賃金要件の撤廃は2026年10月の予定
厚生労働省の資料は、令和7年年金制度改正法に基づき令和8年10月に賃金要件を撤廃する予定としています。
理由は、すべての都道府県で令和7年度の地域別最低賃金が時給1,016円を超えたことです。
時給1,016円以上で週20時間働けば、月額賃金が自動的に8万8千円以上になるという計算になります。
厚生労働省自身が「予定」と書いているので、確定した施行日として扱わないでください。
企業規模要件は10年かけて下がる
短時間労働者が加入対象になるのは、特定適用事業所で働く場合です。
その人数の基準が段階的に下がります。
| 時期 | 企業規模要件 |
|---|---|
| 現在 | 従業員51人以上 |
| 令和9(2027)年10月から | 従業員36人以上 |
| 令和11(2029)年10月から | 従業員21人以上 |
| 令和14(2032)年10月から | 従業員11人以上 |
| 令和17(2035)年10月から | 従業員10人以下 |
この人数は厚生年金保険の被保険者数で数え、法人は同一法人格のすべての適用事業所の合計、個人事業所は事業所単位です。
10人以下の店が短時間労働者について強制適用になるのは令和17年10月からです。
任意で加入すると3年間の支援がある
規模要件を満たさない企業でも、従業員の2分の1以上の同意があれば短時間労働者を加入させられます。
厚生労働省の資料は、令和8年10月以降にこの制度で任意加入し、短時間労働者の保険料の一部を事業主が負担すると、3年間の保険料調整制度による支援を受けられると説明しています。
人が採れない店にとっては、条件として出せる材料になります。
日払いや短期のスタッフは社会保険の対象外
12条には5号以外の適用除外も並んでいます。
夜のお店の雇い方に直接あたるものが2つあります。
どちらも「ただし」で戻る作りなので、そこまで読む必要があります。
日雇いは1か月を超えると対象になる
12条1号イは「日々雇い入れられる者」を適用除外にしています。
ただし同号のただし書で、1月を超えて引き続き使用されるに至った場合は除かれます。
日払いのヘルプが続けて入るようになったら、そこで見直しが要ります。
日払いの源泉徴収も2か月で扱いが変わるので、日雇いの源泉徴収と丙欄とあわせて確認してください。
2か月以内の契約も見込みで判断する
12条1号ロは「2月以内の期間を定めて使用される者」を除外しています。
ただし条文は「当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの」と限っています。
更新する前提で2か月契約を繰り返すと、見込みがある側と判断されます。
掛け持ちで働く人の社会保険はダブルワークと社会保険で別に整理しています。
契約書の期間だけで決まるものではありません。
まとめ:飲食店の社会保険は3つ順に見る
- 1段目:個人経営の飲食店は業種の列挙に無く、人数を問わず強制適用にならない
- 法人は別:1人でも適用事業所(厚年法6条1項2号)
- 2段目:4分の3以上働く人は規模を問わず被保険者
- 3段目:4分の3未満は20時間・8万8千円・学生の3つで判定
- 深夜割増:8万8千円の判定には入らない(12条5号ロの括弧書き)
- 2026年10月:賃金要件の撤廃は予定。10人以下の店に効くのは令和17年10月から
法人化を考えている店は、社会保険料の負担が同時に発生することを織り込んでおいてください。
個人事業主が従業員を雇うときの手続き全体は個人事業主が従業員を雇うときにまとめています。
資格喪失の届出は5日以内です(従業員が辞めたときの手続き)。
同じ4分の3基準は健康診断でも使います(深夜業の健康診断)。
この記事は条文と厚生労働省の公表資料をもとにした一般的な整理です。
加入の要否は個別の事情で結論が変わるため、具体的な判断は年金事務所または社会保険労務士に確認してください。
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この記事で参照した一次情報
- 厚生年金保険法(6条・12条)
- 健康保険法(3条1項9号・3条3項)
- 厚生年金保険法施行規則(9条の4)
- 最低賃金法(4条3項)
- 厚生労働省 短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント(令和8年1月作成)
- 日本年金機構 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大

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