22時以降は1,500円払っているから、最低賃金はクリアしている。
よく聞く確認のしかたですが、これは条文の順番が逆になっています。
歩合給は最低賃金の計算に入りますが、深夜割増の上乗せ分は入りません。
先に最低賃金を満たしているかを見て、そのあとに深夜の割増を乗せる、という順番です。
そしてもう1つ、方向が反対の話があります。
ドリンクバックや同伴バックは、最低賃金には入るうえに、深夜割増の基礎にも入ります。
この記事では、2026年10月1日から上がる地域別最低賃金の額と、計算の順番を整理します。
読み終えたら、バック込みの時給が最低賃金を割っていないかを、自分で検算できます。
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歩合給を最低賃金と比べるときの換算式
最低賃金法4条1項は、最低賃金額以上の賃金を支払うことを使用者の義務にしています。
比べる相手は時間あたりの金額なので、歩合給はいったん時間に直します。
その換算のしかたが最低賃金法施行規則2条に書かれています。

バックの合計を総労働時間で割る
施行規則2条1項5号は、出来高払制その他の請負制で定められた賃金について、こう書いています。
当該賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間。以下この号において同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によつて労働した総労働時間数で除した金額
最低賃金法施行規則2条1項5号
締め日がある店は締め日から締め日までで計算します。
月20,000円のバックを90時間で割れば222円で、これを基本の時給に足して比べます。
臨時のものと1か月を超える周期のものは外す
最低賃金法4条3項は、算入しない賃金を厚生労働省令に委ねています。
施行規則1条1項が挙げているのは「臨時に支払われる賃金」と「一月をこえる期間ごとに支払われる賃金」の2つです。
毎月の締めで払うドリンクバックや同伴バックは、どちらにも当たりません。
一方、年2回の報奨金や周年の特別ボーナスは外れます。
深夜割増の上乗せ分は比較に使えない
施行規則1条2項3号が、この記事でいちばん効く条文です。
午後十時から午前五時まで(中略)の間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分
最低賃金法施行規則1条2項3号
外れるのは「こえる部分」だけです。
時給1,200円で深夜に1,500円払っているなら、比べるのは1,200円のほうで、上乗せの300円は最低賃金の計算に使えません。
営業時間の大半が22時以降の店ほど、この勘違いが起きやすくなります。
深夜割増そのものの計算は深夜割増賃金の計算にまとめています。
2026年10月からの最低賃金と歩合給の実額
令和8年度の地域別最低賃金は2026年9月3日に答申が出そろいました。
全国加重平均は1,177円で、前年度から56円の引上げです。
金額と発効日は都道府県ごとに違います。
発効日は10月1日から12月2日までばらける
| 都道府県 | 改定前 | 改定後 | 発効日(予定) |
|---|---|---|---|
| 東京 | 1,226円 | 1,280円 | 2026年10月1日 |
| 大阪 | 1,177円 | 1,231円 | 2026年10月1日 |
| 愛知 | 1,140円 | 1,195円 | 2026年10月1日 |
| 福岡 | 1,057円 | 1,114円 | 2026年10月4日 |
| 京都 | 1,122円 | 1,180円 | 2026年11月16日 |
| 沖縄 | 1,023円 | 1,086円 | 2026年12月2日 |
最高は東京の1,280円、最低は宮崎の1,085円です。
京都は11月16日、岩手・熊本は12月1日、沖縄は12月2日で、10月1日に発効するのは47都道府県のうち15だけです。
締め日をまたいで発効する県では、同じ月の給与計算に2つの最低賃金が出てきます。
なお、発効日は異議の申出の状況によって変わる可能性があると厚生労働省が注記しています。
時給1,200円+バックで東京の1,280円を満たすか
東京の店で確かめてみます。
時給1,200円、19時から翌1時までの6時間、月15日で総労働時間は90時間とします。
ドリンクバックが1本500円で月40本なら20,000円です。
- 基本給:1,200円 × 90時間 = 108,000円
- 歩合給:20,000円 ÷ 90時間 = 222円
- 比較する時間額:1,200円 + 222円 = 1,422円
1,422円なので1,280円を満たします。
ただしバックが無い月は1,200円のままなので、10月1日から最低賃金を下回ります。
歩合で満たしている店は、歩合が落ちた月に割れる構造になっている点に注意が要ります。
歩合給は深夜割増の基礎にも入る
ここが最低賃金と逆方向に効く部分です。
最低賃金では深夜の上乗せ分を外しましたが、深夜割増の計算では歩合給を入れます。
基本給だけで割増を計算している店は、この分を払っていないことになります。
除外できる賃金は7つしかない
労働基準法37条5項は、割増賃金の基礎から家族手当・通勤手当と「厚生労働省令で定める賃金」を外すとしています。
その省令が労働基準法施行規則21条で、別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の5つです。
合わせて7つで、この列挙に無いものは外せません。
ドリンクバック・同伴バック・指名料のバックは、どれにも当たらないので基礎に入ります。
歩合の割増は0.25倍だけ足す
計算方法は労働基準法施行規則19条1項6号です。
出来高払制の部分は「賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額」を基礎にします。
歩合給はその時間に働いた成果として既に払われているので、上乗せするのは37条4項の2割5分だけです。
基本給のように1.25倍にはしません。
払い漏れは1人あたり年3万円になる
さきほどの例で計算します。
19時から翌1時までのうち深夜は22時からの3時間なので、月15日で45時間です。
- 歩合の時間単価:20,000円 ÷ 90時間 = 222.22円
- 深夜の上乗せ:222.22円 × 0.25 × 45時間 = 2,500円
- 年間:2,500円 × 12か月 = 30,000円
キャスト5人・3年で450,000円になります。
さらに労働基準法114条により、裁判所は同一額の付加金の支払を命じることができます。
完全歩合給でも保障給の義務がある
「売上のバックだけ」という払い方にも条文があります。
雇用契約で働いてもらう以上、完全歩合であっても最低限の保障が必要です。
根拠は労働基準法27条です。
労働時間に応じた一定額を定める
出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
労働基準法27条
客が付かない日でも、出勤して働いた時間に対して保障給が要るという条文です。
違反は労働基準法120条1号で30万円以下の罰金になります。
業務委託なら最低賃金も保障給もかからない
最低賃金法も労働基準法も、対象は労働者です。
本当に業務委託であれば、最低賃金も27条の保障給も適用されません。
ただし判断されるのは契約書の表題ではなく実態です。
出勤日を指定してペナルティを科していれば労働者と判断される方向に傾くので、キャストの業務委託の裁判例を先に見てください。
まとめ:歩合給と最低賃金は2回チェックする
- 入れるもの:毎月の締めで払うバックは最低賃金の計算に算入する
- 外すもの:深夜の上乗せ分、臨時の賃金、1か月を超える周期の賃金
- 換算:バックの総額 ÷ その期間の総労働時間数
- 割増の基礎:施行規則21条の7つ以外は外せないのでバックも入る
- 上乗せ率:歩合部分は0.25倍だけを足す
- 2026年10月:全国加重平均1,177円。発効日は10月1日から12月2日まで幅がある
自分の県の発効日を先に確認して、その締めから時給を切り替えるのが確実です。
毎月の計算全体の流れは給与計算のやり方にまとめています。
深夜割増を外して判定する構造は社会保険にもあります(飲食店の社会保険の加入条件)。
バックと深夜割増を毎月まとめて計算する方法はシメルンについてにあります。
人件費が原価より大きい構造はバーの原価率は20%で数字にしました。
人件費を削った店が黒字になっていない点はバー経営が難しい理由で統計から見ました。
この記事は条文と厚生労働省の公表資料をもとにした一般的な整理です。
個別の賃金体系が最低賃金を満たすかどうかは事情によって結論が変わるため、具体的な判断は所轄の労働基準監督署または社会保険労務士に確認してください。
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この記事で参照した一次情報
- 最低賃金法(4条)
- 最低賃金法施行規則(1条・2条)
- 労働基準法(27条・37条・114条・120条)
- 労働基準法施行規則(19条・21条)
- 厚生労働省 全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました(令和8年9月3日)

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