客足は悪くないつもりなのに、毎月ぎりぎりで残らない。
バーをやっていて「難しい」と感じるとき、原因の見当が付かないのがいちばんこたえます。
バー経営が難しいのは、客が減ったからでも、原価が高いからでもありません。
倒産統計で伸びているのは「販売不振」ではなく「人件費高騰」で、経営指標で見るとバーは飲食業でいちばん原価率が低い業種です。
それでも売上高営業利益率はマイナスになります。
この記事では、東京商工リサーチの倒産集計と日本政策金融公庫の経営指標を突き合わせて、バー経営の何が難しいのかを数字で分解します。
どちらの統計も業種の分け方が同じ「バー,キャバレー,ナイトクラブ」なので、利益の構造と倒産の結果を並べて見られます。
読み終えたら、原価・人件費・諸経費・営業時間のどれから手を付けるべきかを、自店の数字で決められます。
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バー経営が難しいのは客が減ったからではない
まず、実際に店が潰れている原因の内訳から見ます。
東京商工リサーチは毎月「飲食業」の倒産を集計し、原因別の件数まで公表しています。
ここを読むと、増えている原因と増えていない原因がはっきり分かれています。
2026年の飲食業倒産は年間最多を更新するペース
2026年上半期の飲食業倒産は509件でした。
上半期として1997年以降の30年間で初めて500件台に乗り、過去最多です。
その後も7月が112件、8月が80件と続き、1〜8月の累計は701件(前年同期比8.8%増)になりました。
前年の2025年は年間1,002件で、飲食業として初めて1,000件を超えた年です。
このペースだと2026年はその記録も更新します。
伸びているのは販売不振ではなく人件費
原因別に見ると、件数がいちばん多いのは今も「販売不振」です。
ただし、増えているかどうかは別の話でした。
| 期間 | 販売不振 | 人件費高騰 | 人手不足 |
|---|---|---|---|
| 2026年1〜5月 | 342件(+0.2%) | 20件(6.6倍) | 28件(2.0倍) |
| 2026年7月 | 91件(+7.0%) | 12件(前年同月1件) | 13件(2.2倍) |
1〜5月の「販売不振」は前年比プラス0.2%、つまりほぼ横ばいです。
一方で「人件費高騰」は20件と、前年同期の3件から6.6倍になっています。
7月は人件費高騰が12件で、前年同月は1件でした。
客が来なくなって潰れる店の数は変わらず、人にかかる費用で潰れる店だけが急増している、という形です。
バー・キャバレー・ナイトクラブの倒産は1.6倍だった
業種の細かい分類まで公表された直近の集計は2024年1〜11月のものです。
この期間の飲食業倒産908件のうち、「バー,キャバレー,ナイトクラブ」は80件で前年同期比66.6%増(1.6倍)でした。
同じ期間の居酒屋(酒場,ビヤホール)は172件で8.8%増、専門料理店は224件で10.8%増です。
件数では居酒屋のほうが多いものの、伸び方はバー側が突出していました。
なお2025年以降の月次発表では「バー,キャバレー,ナイトクラブ」の個別件数が毎回は出ていないため、最新の数字として使えるのはこの2024年1〜11月です。
倒産した店の9割が資本金1千万円未満
規模別の内訳も出ています。
2026年上半期の509件のうち、資本金1千万円未満が461件で構成比90.5%でした。
負債1億円未満が450件で88.4%、法的整理の形態は破産が478件で93.9%です。
8月だけで見ると個人企業ほかが30件と全体の37.5%を占め、前年同月の2倍になりました。
チェーンが畳んでいるのではなく、オーナー1人か数人でやっている規模の店が落ちている、という内訳です。
これから開けるなら、経験のある人がどこで外しているかを先に見ておくほうが安全です。公庫の実データはバー開業と未経験で整理しました。
バー経営の収支は原価が低いのに利益が残らない
次に、潰れる前の段階、つまり平時の収支を見ます。
使うのは日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」で、飲食店・宿泊業の業種別に実際の決算から指標を出したものです。
「バー,キャバレー,ナイトクラブ」は調査対象80社、うち黒字かつ自己資本プラスの企業が42社あります。
バーの原価率20.0%は飲食業で最も低い
売上高総利益率が80.0%なので、原価率は20.0%です。
| 業種 | 社数 | 原価率 | 人件費率 | 諸経費率 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 一般飲食店 | 464 | 35.0% | 32.9% | 30.7% | -2.2% |
| 酒場,ビヤホール | 212 | 32.2% | 32.2% | 32.9% | -1.8% |
| 遊興飲食店 | 296 | 29.0% | 31.9% | 34.5% | -1.5% |
| バー,キャバレー,ナイトクラブ | 80 | 20.0% | 30.7% | 39.2% | -0.7% |
一般飲食店より15ポイント低く、居酒屋より12ポイント低い数字です。
酒は仕入れに対して売値を高く付けられるので、こうなるのが自然です。
原価の中身と下げ幅についてはバーの原価率が20%になる理由と内訳で分解しています。
それでも売上高営業利益率はマイナス0.7%
原価率が最も低い業種が、いちばん儲かっているかというとそうではありません。
バーの売上高営業利益率は平均でマイナス0.7%です。
数字としては一般飲食店のマイナス2.2%より「まし」ですが、原価で15ポイント有利なのに、営業利益の差は1.5ポイントしかありません。
原価で浮いた分の9割が、その先のどこかで消えているということです。
諸経費39.2%が飲食業で突出している
消えている先は諸経費です。
バーの諸経費対売上高比率は39.2%で、一般飲食店の30.7%より8.5ポイント高い数字でした。
諸経費には家賃、水道光熱費、カラオケや酒類のリース・サブスク、広告費などが入ります。
ここで効いているのは、売上が小さくても同じだけかかるという性質のほうです。
実際、1企業当たりの店舗面積はバーが84.2㎡で、一般飲食店の142.9㎡、居酒屋の132.1㎡より小さいのに、売上に対する諸経費の比率だけが高くなっています。
比率を足し引きしても営業利益率にはならない
ここは読み方の注意点です。
総利益率80.0%から人件費率30.7%と諸経費率39.2%を引くと10.1%になりますが、公表されている営業利益率はマイナス0.7%です。
この調査の「平均値」は、企業ごとに計算した比率を平均したものなので、比率どうしを足し引きしても別の比率には一致しません。
業種間で「どちらが高いか」を比べる用途には使えますが、自店の損益を組み立てる計算には使えません。
自店の数字は試算表から取ってください。
この構造は開業時の資金計画にもそのまま効きます。開業費用と運転資金の置き方はバーの開業資金で整理しました。
1〜4人のバー経営はすでに人件費を削りきっている
ここまでの80社には、ママ1人の店から従業員20人のクラブまで混ざっています。
同じ調査には従業者規模別の表もあり、「遊興飲食店」は1〜4人/5〜9人/10〜19人/21〜49人に分かれています。
小さいバーやスナックに当てはまるのは1〜4人の列(97社)で、ここを見ると話が変わります。
| 従業者数 | 社数 | 人件費率 | 諸経費率 | 1人当たり売上 | 坪当たり売上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1〜4人 | 97 | 27.7% | 39.7% | 1,246万5千円 | 177万2千円 |
| 5〜9人 | 78 | 33.2% | 33.0% | 821万3千円 | 214万2千円 |
| 10〜19人 | 78 | 34.3% | 32.0% | 751万8千円 | 293万6千円 |
| 21〜49人 | 43 | 34.2% | 30.2% | 536万4千円 | 405万円 |

人件費率27.7%は規模別で最も低い
1〜4人の店の人件費率は27.7%です。
5〜9人の33.2%より5.5ポイント低く、規模別で最も低い数字でした。
オーナー自身がカウンターに立っていて、人を雇っていないか、雇っていても1〜2人という構成だからです。
つまり、小さいバーの「人件費が重い」という感覚は、比率の上では出ていません。
すでに削りきったあとの数字なので、ここからさらに人を減らす余地がない、と読むほうが実態に近いはずです。
諸経費率39.7%は規模別で最も高い
下がった人件費率と入れ替わるように、諸経費率が上がります。
1〜4人は39.7%で、21〜49人の30.2%より9.5ポイント高い水準です。
家賃も水道光熱費もリース料も、店が小さいからといって比例して小さくはなりません。
小さいバーの収支を圧迫しているのは人件費ではなく、売上で割ると重くなる固定費のほうです。
1人当たり売上1,246万円は規模別で最も高い
働いている人の側から見ると、もっとはっきりします。
1〜4人の店の従業者1人当たり売上高は1,246万5千円です。
5〜9人の821万3千円、21〜49人の536万4千円と比べて、規模が小さいほど1人が背負う売上は大きくなっています。
飲食店・宿泊業全体の平均847万4千円と比べても1.5倍です。
小さいバーは、1人当たりで見れば飲食業のなかで最も売っている部類に入ります。
坪当たり売上は大型店の6割
ところが、同じ売上を面積で割ると逆になります。
1〜4人の坪当たり売上は年177万2千円で、10〜19人の293万6千円の約6割です。
人は目一杯働いていて、場所だけが余っている、という形になります。
この「場所が余っている」が、家賃を売上で割ったときの諸経費率39.7%として出てきます。
席が埋まらない時間帯が長いということでもあるので、後述する営業時間の設計につながります。
黒字のバー経営と赤字の違いは人件費率ではない
この調査には「黒字かつ自己資本プラス企業平均」という列があります。
バー,キャバレー,ナイトクラブでは80社中42社がこれに当たります。
全体平均と並べると、どこで差が付いているかが見えます。
| 指標 | 全体平均(80社) | 黒字企業平均(42社) |
|---|---|---|
| 原価率 | 20.0% | 20.4% |
| 人件費率 | 30.7% | 31.7% |
| 諸経費率 | 39.2% | 35.6% |
| 売上高営業利益率 | -0.7% | +4.8% |
| 従業者1人当たり売上高 | 1,180万6千円 | 1,246万2千円 |
| 従業者1人当たり人件費 | 293万9千円 | 306万7千円 |
| 人件費対粗付加価値額比率 | 94.6% | 79.6% |
| 損益分岐点比率 | 101.7% | 95.3% |
| 自己資本比率 | -38.0% | +37.3% |
黒字のバーは人件費率がむしろ高い
最初に目につくのはここです。
黒字企業の人件費率は31.7%で、全体平均の30.7%より1.0ポイント高くなっています。
1人当たり人件費も306万7千円で、全体の293万9千円を上回りました。
原価率にいたっては黒字企業のほうが0.4ポイント高く、仕入れを削って黒字になっているわけでもありません。
人件費を切り詰めた店が黒字になっている、という関係はこの統計には出ていませんでした。
差が出るのは諸経費と労働分配率
では何が違うのか。
諸経費率が39.2%から35.6%へ3.6ポイント低く、人件費対粗付加価値額比率が94.6%から79.6%へ15.0ポイント低くなっています。
人件費対粗付加価値額比率は労働分配率とも呼ばれ、仕入れを引いたあとに残った金額のうち、何割が人に回っているかを示します。
全体平均の94.6%は、残った金額のほとんどが人件費で消えて、家賃も借入返済も残らない状態です。
黒字企業は人にかける「額」を増やしたうえで、1人当たり売上を1,246万2千円まで上げて分配率を下げています。
損益分岐点比率を月商200万円で実額にする
損益分岐点比率は、損益分岐点売上高が実際の売上高の何%かを示す指標です。
100%を超えていれば、今の売上では足りていないという意味になります。
月商200万円の店に当てはめると、こうなります。
- 全体平均101.7%:損益分岐点は月203万4千円。3万4千円足りない
- 黒字企業95.3%:損益分岐点は月190万6千円。9万4千円の余裕がある
同じ月商200万円でも、この2つの店の距離は月12万8千円です。
年間にすると153万6千円になります。
自己資本比率は75ポイント違う
積み重なった結果が自己資本比率です。
全体平均はマイナス38.0%、黒字企業はプラス37.3%で、差は75.3ポイントあります。
マイナスは債務超過を意味するので、平均的なバーは帳簿の上で債務超過ということになります。
1年の損益の差は5.5ポイントでも、それが続くと資本の側でこれだけ開きます。
この分配率の差は、オーナー自身の取り分にもそのまま効きます。年収の実額はバー経営の年収にまとめました。
バー経営で動かせるのは時給ではなく誰が何時に立つか
ここまでを踏まえると、手を付けられる場所は限られます。
原価率20%の店で仕入れを5%安くしても、売上に対しては1%しか効きません。
そして時給は、店の側で下限を決められません。
深夜割増で22時以降の単価は1.25倍になる
労働基準法37条4項は、午後10時から午前5時までの労働に2割5分以上の割増賃金を義務づけています。
令和8年度の地域別最低賃金は東京都が1,280円で、2026年10月1日から発効します。
最低賃金ちょうどで雇うと、22時以降の1時間は1,600円になります。
バーの営業時間はほぼ全部がこの時間帯に入るので、深夜割増は例外処理ではなく常時かかる前提のコストです。
時間帯の数え方と朝までの店の扱いは深夜手当が何時から付くかと22時〜翌5時の根拠にまとめています。
閉店を1時間延ばしたときの損益分岐を出す
家賃やリース料は、1時間長く開けても増えません。
増えるのは原価と、その1時間の人件費だけです。
そこで、延長した1時間だけを取り出して計算します。
- 増える人件費:スタッフ1人で1,600円(東京・最低賃金・深夜割増込み)
- 残る粗利:原価率20%なら売上の80%
- 分岐点:1,600円 ÷ 0.8 = その1時間で2,000円
スタッフ2人を立たせるなら4,000円です。
原価率が低いことは、この判断では有利に働きます。
ただしこれは「追加した1時間だけ」の分岐点で、店全体の損益分岐点比率とは別の計算です。
混ぜると、延長すれば黒字になるという誤った結論になります。
なお0時以降まで営業できるかは地域と許可の種類で決まるので、風営法の営業時間と延長できる地域の条件を先に確認してください。
記録が無いと割増は計算できない
この計算はどれも、何時から何時まで誰が立っていたかが残っていて初めて成立します。
日をまたぐ勤務は1日の労働として通しで数えるため、22時から翌5時のうち何分が深夜だったかを分けて集計する必要があります。
手計算でやると、延長した分の人件費が見えないまま月が終わります。
試すだけなら深夜手当の計算ツールで1日分を入れてみるのが早いはずです。
最低賃金や社会保険の引き上げが今後どう効くかはスナック経営が厳しい理由とコスト構造で年ごとに並べています。
客を増やす手に移る前に、いま足りないのが客なのかを確かめる順番があります。切り分け方はバーの集客で先に見る数字にまとめました。
まとめ|バー経営が難しいと感じたときに見る順番
統計から読める順番はこうなります。
- 客足を疑う前に原因別の統計を見る:倒産で増えているのは人件費高騰6.6倍、販売不振は+0.2%
- 原価は先に除外する:バーの原価率20.0%は飲食業で最も低く、削り代が小さい
- 人件費率を自店で確認する:1〜4人の店の平均は27.7%。ここを下回っているなら減らす先はない
- 諸経費率を見る:1〜4人の平均は39.7%。固定費が売上に対して重いのが小規模店の形
- 労働分配率を出す:粗付加価値の94.6%が人件費なら家賃も返済も残らない。黒字企業は79.6%
- 営業時間を1時間単位で検算する:深夜1人1,600円なら、その1時間の分岐点は売上2,000円
黒字のバーは、人件費を削って黒字になっていませんでした。
人にかける額は増やしたうえで、その人が立つ時間を売上につなげて分配率を下げています。
動かせるのは時給ではなく、誰が何時に立つかのほうです。
なお業種別の指標は調査対象数が少ないものを含み、平均値も企業ごとの比率を平均したものです。
自店の判断は、顧問税理士と実際の試算表で行ってください。
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