「バー経営で年収1000万円」という記事を何本も読んだ。
ただ、どれも体験談で、自分の店がその手前のどこにいるのかが分からない。
バー経営の年収は、店の利益とは別の器で決まります。
日本政策金融公庫の経営指標では、バー、キャバレー、ナイトクラブの従業者1人当たり人件費は293万9千円で、黒字企業でも306万7千円です。
そして法人にすると、役員報酬は期首から3か月で固定され、その年は原則として動かせなくなります。
この記事では、公庫の指標で年収の実額を置き、年収1000万円が統計のどこにあるのか、個人と法人で何が変わるのかを整理します。
読み終えたら、自分の取り分を増やすために売上と分配率のどちらを動かすのかを決められます。
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バー経営の年収は店の利益と同じではない
「年収」という言葉は、個人でやっているか法人にしているかで中身が変わります。
ここを揃えないまま他店の数字と比べると、必ずかみ合いません。
先に器の違いを押さえます。
個人事業なら事業所得がそのまま年収になる
個人でバーをやっている場合、自分に払う給料は経費になりません。
売上から仕入と経費を引いた残りが事業所得で、それがそのまま自分の取り分です。
店の利益と自分の年収が同じ数字になるのは、個人事業のほうだけです。
法人なら役員報酬が年収で会社の利益とは別
法人にすると、自分は会社から役員報酬を受け取る立場になります。
役員報酬は会社の経費なので、報酬を上げれば会社の利益は減ります。
「店は黒字だが自分の年収は低い」も、「店は赤字だが自分の年収は高い」も、法人では両方あり得ます。
統計のどこに現れるかも器で変わる
この違いは、経営指標の読み方にも効きます。
法人ならオーナーの報酬は人件費に入り、個人なら人件費ではなく利益の側に残ります。
だから人件費率だけを他店と比べても、オーナーの取り分の差は見えません。
開けたばかりの店がどの位置にいるかは、公庫の開業実態調査のほうに出ています。未経験の割合と開業後の採算はバー開業と未経験にまとめました。
バー経営の年収を公庫の経営指標から見る
金額の出どころとして使えるのは、公庫の「小企業の経営指標調査」です。
細分類が「バー,キャバレー,ナイトクラブ」で、調査対象は80社、そのうち黒字かつ自己資本プラスの企業が42社です。
この表に、人にいくら払っているかの実額が入っています。
従業者1人当たり人件費は293万9千円
従業者1人当たり人件費は平均293万9千円、中央値254万8千円です。
法人であれば、この人件費にはオーナーの役員報酬も含まれます。
業界の実勢としてのオーナーの取り分は、この水準の前後から始まります。
黒字企業でも306万7千円
| 指標 | 全体平均(80社) | 黒字企業平均(42社) | 中央値 |
|---|---|---|---|
| 従業者1人当たり人件費 | 293万9千円 | 306万7千円 | 254万8千円 |
| 従業者1人当たり売上高 | 1,180万6千円 | 1,246万2千円 | 884万5千円 |
| 従業者1人当たり粗付加価値額 | 351万2千円 | 425万9千円 | 285万1千円 |
| 人件費対売上高比率 | 30.7% | 31.7% | 30.0% |
| 人件費対粗付加価値額比率 | 94.6% | 79.6% | 87.3% |
| 売上高営業利益率 | -0.7% | +4.8% | +0.6% |
| 売上高経常利益率(償却前) | 3.7% | 6.8% | 3.3% |
黒字企業と全体の差は、1人当たり人件費で12万8千円しかありません。
人にかける額を絞ることで黒字になっている関係は、この統計には出ていません。
売上高営業利益率は平均マイナス0.7%
売上高営業利益率は全体平均でマイナス0.7%、黒字企業はプラス4.8%です。
減価償却の前で見る売上高経常利益率(償却前)は全体3.7%、中央値3.3%です。
手元に残る感覚に近いのはこの償却前のほうで、年商2,400万円の店なら年79万円ほどにあたります。
比率どうしを足し引きしない
この調査の平均値は、企業ごとに計算した比率を平均したものです。
売上高総利益率80.0%から人件費率30.7%と諸経費率39.2%を引くと10.1%になりますが、公表されている営業利益率はマイナス0.7%です。
業種間の大小を比べるには使えますが、自店の損益を組み立てるのには使えません。
原価と諸経費の構造はバーの原価率に分けて書きました。
バー経営で年収1000万円を統計に当てる
ここまでの数字を使って、よく見る「年収1000万円」の位置を出します。
届かないという話ではなく、届くための条件を具体にするための計算です。
基準は黒字企業の数字を使います。
1人当たり人件費の3.3倍になる
黒字企業の従業者1人当たり人件費は306万7千円です。
年収1000万円はこの3.3倍にあたります。
平均的な1人分の人件費を3人分取る、という水準だと分かります。
1人当たり売上高1,246万円との関係で見る
黒字企業の従業者1人当たり売上高は1,246万2千円です。
1人が生む売上1,246万円のうち、人件費に回っているのは306万7千円で、およそ4分の1です。
この比率のままオーナーが1000万円を取るなら、1人当たり売上を4倍にするか、人を増やして分配の仕組みを変えるかのどちらかになります。
開業者の月商は100万円未満が39.5%
公庫の2025年度新規開業実態調査では、調査時点の月商が「100万円未満」の開業者が39.5%、「100万〜500万円未満」が44.2%です。
採算状況は黒字基調が67.0%、赤字基調が33.0%でした。
開業直後から年収1000万円が前提になる資金計画は、この分布から外れます。
開業時にいくら持つかはバーの開業資金にまとめました。
売上を増やす前に、増やした先で人件費がどう動くかを見ておくと計算が合います。順番はバーの集客で先に見る数字で整理しました。
バー経営の年収を法人にすると1年動かせなくなる
法人にして役員報酬を年収にすると、金額を自由に決められるようになります。
ただし、決められるのは1年に1回だけです。
売上の波が大きい夜の店では、ここがいちばん効く制約になります。
定期同額給与は期首から3か月で固定される
法人税法34条1項1号は、損金に算入できる役員給与のひとつとして定期同額給与を挙げています。
支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、各支給時期の支給額が同額であるものです。
国税庁の説明では、額を改定できるのは会計期間開始の日から3か月を経過する日までとされています。
資金繰りや目標未達では減額できない
3か月を過ぎたあとに減額できるのは、経営状況が著しく悪化した場合などに限られます。
法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれません。
国税庁タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」業績悪化改定事由の注
今月きついから報酬を下げる、という運用はできません。
下げた分は損金にならず、会社の税負担が残ったまま手取りが減ります。
改定が認められる場合は3つに分かれている
| 改定の種類 | 時期・条件 |
|---|---|
| 通常の改定 | 会計期間開始の日から3か月を経過する日まで |
| 臨時改定事由 | 役員の地位や職務の内容の重大な変更など、やむを得ない事情 |
| 業績悪化改定事由 | 経営状況が著しく悪化したこと。減額改定に限られる |
個人から法人にするなら、繁忙と閑散の差を1年分ならした額で決めることになります。
金額の判断は顧問税理士と決算期の設計まで含めて行ってください。
バー経営の年収を残すのは分配率のほう
最後に、黒字企業と全体でいちばん差がついている指標を見ます。
原価率でも人件費率でもありません。
生み出した付加価値のうち、どれだけが人件費に消えているかの比率です。
人件費対粗付加価値額比率は94.6%と79.6%
人件費対粗付加価値額比率は全体平均94.6%、黒字企業79.6%で、15.0ポイント違います。
全体平均の店は、生んだ付加価値のほぼ全部を人件費で使い切っています。
黒字企業はこの比率を下げていて、その下げ方は人件費を削るのではなく1人当たり売上を上げるほうでした。
誰が何時に立つかの組み方はバー経営が難しいと感じたときに見る数字に書いています。
深夜の割増は分配率を押し上げる
22時から翌5時に人を立てると、賃金は1.25倍になります。
同じ売上でも営業時間を後ろに伸ばすほど、人件費の側だけが増えます。
割増の重なり方は深夜割増賃金の割増率で早見表にしました。
個人なら青色申告特別控除が55万円か65万円
個人でやっているなら、青色申告特別控除で所得から55万円を引けます。
電子帳簿保存またはe-Taxによる申告の要件を満たすと65万円になります。
手取りで見た年収は、同じ事業所得でもこの控除の分だけ変わります。
世帯収入の全部を店で作っている人は30.3%
公庫の調査では、事業からの収入が世帯収入の100%を占める開業者は30.3%でした。
経営者本人の定期的な収入に占める割合で見ると、100%は53.3%です。
店の年収だけで世帯を成り立たせている人は3割で、残りは他の収入と組み合わせています。
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まとめ|バー経営の年収で見る順番
- 器を揃える:個人なら事業所得が年収、法人なら役員報酬が年収。店の利益とは別
- 実額は293万9千円から:従業者1人当たり人件費は平均293万9千円、中央値254万8千円
- 黒字でも306万7千円:黒字企業との差は12万8千円。人件費を絞って黒字になっている関係は統計に無い
- 年収1000万円は3.3倍:1人当たり売上1,246万円の4分の1が人件費という構造を変える必要がある
- 法人は1年動かせない:定期同額給与は期首3か月まで。資金繰りや目標未達では減額できない
- 差がつくのは分配率:人件費対粗付加価値額比率94.6%と79.6%の15.0ポイント
年収を上げる打ち手は、時給を下げることではありませんでした。
1人当たり売上を上げて分配率を下げるか、報酬の器を先に設計するかのどちらかです。
どちらも、誰が何時に立って時給がいくらだったかの記録が無いと計算できません。
なお業種別の指標は調査対象数が少ないものを含み、平均値も企業ごとの比率を平均したものです。
自店の判断は顧問税理士と実際の試算表で行ってください。
この記事で参照した一次情報
- 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」
- 同 飲食店・宿泊業(業種別経営指標)
- 同「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日公表)
- 法人税法(34条1項1号)
- 国税庁タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」
- 同 No.2072「青色申告特別控除」
- 労働基準法(37条4項)

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