スナックを開けたいが、許可なのか届出なのか、調べるほど条件が増えていく。
物件を押さえる前に、ここをはっきりさせておかないと後戻りになります。
必要な手続きは、お店で「接待」をするかどうかと、夜0時を過ぎても酒を出すかどうかの2つでほぼ決まります。
ここを取り違えると、許可を取り直すか、営業時間を変えるかの二択になります。
この記事では、必要な許可と届出を法令の条文にあたって整理したうえで、開店してから毎月やってくる事務まで書きます。
開業までのことだけ書いた記事は多いのですが、実際にしんどくなるのは開店した後だからです。
読み終えたら、自分の店の構想でどの手続きが要るかと、開店後に毎月何が来るかが分かります。
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スナック開業に必要な許可・届出は3つ
まず全体像です。
スナックを開くときに関係する手続きは3つあり、そのうち2つは、どちらか一方しか選べません。
理由はこのあと説明します。
| 手続き | どこへ | 必要になる条件 |
|---|---|---|
| 飲食店営業許可 | 保健所(都道府県知事) | 飲食物を出すなら必ず |
| 風俗営業の許可 | 公安委員会(所轄警察署) | 客に接待をするなら |
| 深夜における酒類提供飲食店営業の届出 | 公安委員会(所轄警察署) | 接待をせず、0時以降も酒を出すなら |
飲食店営業許可は、食品衛生法55条1項で「都道府県知事の許可を受けなければならない」と定められています(食品衛生法)。
これはどんな形態でも共通なので、迷う余地がありません。
問題は残りの2つです。
スナック開業で最初に決めるのは「接待をするか」
ここが業態そのものを決める分岐点です。
接待をするなら風俗営業の許可が要りますが、そのかわり深夜は営業できません。
接待をしないなら届出だけで済み、0時以降も営業できます。
両方を取ることは、原則としてできません。
順番に見ていきます。
風営法の「接待」の定義
風営法は「接待」をこう定義しています。
この法律において「接待」とは、歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすことをいう。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 第2条第3項
そして、接待をして飲食させる営業は「風俗営業」にあたり、許可が必要になります(同法2条1項1号「設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」)。
条文の言葉だけでは判断しにくいところで、実際の線引きは営業の形態ごとに所轄の警察署が判断します。
カウンター越しに世間話をする程度なのか、客の隣について会話やお酌をするのか。
ここは自己判断せず、開業前に所轄警察署の生活安全課に相談してください。
後から「接待にあたる」と判断されると、無許可営業になります。
どこからが接待になるかは、警察庁の解釈運用基準に6つの類型で示されています。
カウンター越しの世話と、隣に座って一緒に歌う行為の違いは風営法の接待に当たる行為と当たらない行為にまとめました。
風俗営業許可を取ると0時以降は営業できない
接待をする店として許可を取った場合、営業時間に上限がかかります。
風俗営業者は、深夜(午前零時から午前六時までの時間をいう。以下同じ。)においては、その営業を営んではならない。
同法 第13条第1項
つまり「接待あり」と「深夜営業」は両立しません。
接待をする店にするなら0時で閉める。
同じ判断は、ガールズバーを開くときにも最初に必要になります。
カウンター越しの接客で届出のまま営業する条件はガールズバーの開業で整理しました。
0時以降も開けるなら接待をしない。
開業準備でいちばん最初に決めるべきは、ここです。
なお同項にはただし書きがあり、都道府県の条例で定める日・地域に限って0時以降も認められる場合があります。
自分の店が該当するかは条例を確認してください。
スナックで0時以降も営業するなら深夜酒類提供飲食店営業の届出
接待をせず、0時以降も酒を出す店はこちらの手続きになります。
バーのように接客を伴わない業態でも、照明や客席の作りで許可対象になることがあります。
3つのルートはバーの開業で条文ごとに確認しました。
期限・様式・罰則までは深夜酒類提供飲食店営業の届出にまとめました。
許可ではなく届出なので、要件を満たしていれば審査で落ちることはありません。
ただし出す先と期限、そして「そもそも営業できる場所か」に注意が要ります。
酒類提供飲食店営業を深夜において営もうとする者は、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する公安委員会に、次の事項を記載した届出書を提出しなければならない。
同法 第33条第1項
届出先と提出期限|営業開始の10日前まで
条文上の提出先は公安委員会ですが、実務では所轄警察署の生活安全課に出します。
提出期限は営業を開始しようとする日の10日前までで、手数料はかかりません(愛知県警察の案内)。
主な必要書類は次のとおりです。
- 営業開始届出書
- 営業の方法を記載した書面
- 営業所の平面図
- 住民票の写し(本籍または国籍の記載があるもの)
- 法人の場合は定款、登記事項証明書、役員の住民票
様式と添付書類は都道府県ごとに違います。
必ず自分の所轄警察署が配布しているものを使ってください。
平面図は「営業所の構造及び設備の概要」を示すもので、図面の書き方でつまずく人が多い箇所です。
不安なら行政書士に頼む選択肢もあります。
物件契約の前に用途地域を確認する
見落とすと物件選びからやり直しになるのがこれです。
風営法33条4項は、都道府県が条例で地域を定めて、深夜の酒類提供を禁止できると定めています。
愛知県の例では、第一種低層住居専用地域から第二種住居地域まで、および田園住居地域では営業できません。
住居系の用途地域はおおむね対象になると考えておくのが安全です。
契約書に判を押す前に、物件の用途地域を調べて、所轄警察署に確認してください。
内装に手をつけてから発覚すると、まず取り返しがつきません。
居抜き物件で「前の店も同じ業態だった」場合でも、条例が変わっている可能性があるので確認は必要です。
スナック開業の税務手続き|税務署に出す2枚
警察と保健所の手続きに気を取られて、税務署への届出が後回しになりがちです。
個人でスナックを開業する場合、出すのは基本的に2枚。
この2枚は期限が別物なので、分けて覚えてください。
開業届の期限は「1か月以内」ではない
開業届の期限を「開業から1か月以内」と書いている情報をよく見かけますが、条文はこうなっています。
……その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない。
所得税法 第229条(開業等の届出)
国税庁の案内も同じで、提出時期は「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください」と書かれています(国税庁 A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続/所得税法)。
期限には余裕があるように見えますが、青色申告をするなら別途「青色申告承認申請書」に期限があります。
こちらは開業届よりずっと厳しいので、結局は開業してすぐ2枚まとめて出しておくのが安全です。
人を雇うなら給与支払事務所等の開設届出書
スタッフに給料を払うなら、もう1枚必要です。
こちらは期限が明確に区切られています。
なお税務署への届出だけでなく、労災保険・雇用保険の手続きも同時に発生します。
国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け……た者は、……その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。
所得税法 第230条
整理すると、開業届は確定申告期限まで、給与支払事務所等の開設届出書は1か月以内です。
世の中で言われる「開業届は1か月以内」は、おそらくこの2枚が混同されたものです。
なお、届出を出したあとは毎月の源泉徴収が始まります。
ホステスとして報酬を払う形にする場合は通常の給与と計算式が違うので、ホステス報酬の源泉徴収を先に読んでおいてください。
年1回の確定申告については水商売の確定申告にまとめています。
スナック開業に防火管理者は必要か
「飲食店を開くなら防火管理者が必要」と一律に書かれることがありますが、条件があります。
なお、防火管理者とは別に、風営法24条1項の管理者を営業所ごとに1人選任する必要があります。
誰がなれるのか、2店舗で兼任できるのかは風俗営業の管理者にまとめました。
飲食店の場合、防火管理者を定めなければならないのは収容人員が30人以上のときです(消防法施行令1条の2第3項1号ロ/消防法施行令)。
収容人員は同条で「当該防火対象物に出入し、勤務し、又は居住する者の数」とされていて、従業員も含めて数えます。
カウンター10席程度の小さなスナックであれば30人に届かないことが多く、その場合は不要です。
ただし算定方法は総務省令で定められており、雑居ビルでは建物全体で判定されることがあります。
同じビルに他の飲食店が入っていれば、店単体では30人未満でも対象になり得ます。
建物の状況で変わるので、所轄消防署に確認してください。
スナック開業の見積もりで抜けやすい費目
総額は物件次第で大きく変わるので、ここでは金額を断定しません。
かわりに、見積もりから抜け落ちやすい費目を挙げます。
抜けやすいのは「開店してから出ていく金」です。
金額の目安と席数からの逆算はスナックの開業資金にまとめました。
開店までにかかるお金
物件と工事が大部分を占めます。
居抜きかスケルトンかで桁が変わる部分です。
- 物件取得費|保証金・礼金・仲介手数料。スナックは保証金が高めに設定されることがある
- 内装・設備工事|居抜きでも、保健所の基準に合わせる工事が出ることがある。シンクの数や手洗い設備は要件が決まっている
- 什器・グラス・酒の初期仕入れ
- 許可・届出の実費|飲食店営業許可の手数料、行政書士に頼む場合の報酬
開店後に毎月出ていくお金
ここが見積もりから漏れやすい部分です。
とくにカラオケのリース料は、契約期間が数年に及ぶことがあります。
- 家賃
- カラオケのリース料|月額で継続的にかかる
- 人件費|売上が読めない時期でも払う必要がある
- 酒の仕入れ
スナックは常連がつくまで時間がかかる業態です。
開店直後から売上が立つ前提で資金計画を組まないでください。
数か月分の家賃と人件費を持った状態で開けるのが安全です。
スナック開業後に始まる給与計算の実務
ここからが、開業記事にはあまり書かれていない部分です。
許可が下りて店が開いたら、次は毎月の締めが始まります。
開業準備の段階では実感が湧きにくいのですが、多くの店が最初の月末につまずくのがここです。
夜のお店の給与計算が面倒な4つの理由
昼の業態と違って、夜のお店では次の条件が重なります。
ひとつずつなら大したことはないのですが、4つ同時に来ると手計算では追いつかなくなります。
- 勤務が日をまたぐ|20時から翌2時のような形が標準なので、日付をまたいだ時間の足し算が必要になる
- 深夜割増がかかる|22時から翌5時の時間帯は割増の対象。労働時間のうち何時間が該当するかを毎日数える
- スタッフごとに時給が違う|一覧表にして全員に見せるわけにいかない
- バックや日払いが混ざる|店ごとにルールが違うので、既製の給与ソフトの項目に収まらない
この4つが重なると、Excelで組んだ表は日をまたぐ勤務のところで壊れます。
紙の伝票を見ながら電卓で計算し直す、というのが多くの店で起きていることです。
まずは深夜手当の計算ツールで、1日分がいくらになるか確かめてみてください。
開店前に決めておくと後が楽になること
店を開ける前に、「誰がいつ何時間働いたかを、どう記録するか」を決めておいてください。
決めずに始めると、最初の月末に必ず困ります。
方法は手書きのノートでも構いません。
大事なのは、次の3つが後から確認できる形になっていることです。
- 出勤と退勤の時刻(何時間働いたか、ではなく時刻そのもの)。深夜割増を計算するには時刻が要ります
- スタッフごとの時給と、変更したときの適用開始日
- バックや日払いを渡した記録。月末に「渡した/もらっていない」で揉めるのはここです
とくに1番目を「何時間働いた」で記録してしまうと、深夜割増の計算ができなくなります。
時刻で残してください。
まとめ|スナック開業の手順
開業したあとに効いてくる最低賃金・社会保険・消費税の動きは、スナック経営が厳しい理由に数字でまとめました。
やることを順番に並べると、こうなります。
- 接待をするか決める。するなら風俗営業の許可で営業は0時まで。しないなら深夜酒類提供飲食店営業の届出で0時以降も営業できる
- 物件を契約する前に用途地域を調べ、所轄警察署に確認する
- 飲食店営業許可を保健所へ。これはどの形態でも必要
- 深夜の届出は営業開始の10日前までに所轄警察署へ
- 税務署へ2枚。開業届は確定申告期限まで、給与支払事務所等の開設届出書は1か月以内
- 防火管理者は収容人員30人以上から。小規模店なら不要なことが多いが、雑居ビルは要確認
- 開店前に、勤務時間の記録方法を決めておく
この記事は法令の条文と各官庁の案内をもとに書いていますが、接待にあたるかどうかの判断、用途地域の可否、収容人員の算定は、いずれも個別の事情で結論が変わります。
最終的な判断は所轄の警察署・保健所・消防署に、税務は税理士に確認してください。
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この記事で参照した一次情報
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(2条1項1号・2条3項・13条1項・33条)
- 食品衛生法(55条1項)
- 所得税法(229条・230条)
- 消防法施行令(1条の2第3項)
- 国税庁 A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続
- 愛知県警察 深夜における酒類提供飲食店営業の営業開始届出手続

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