人を入れるたびに口頭で条件を伝えて、書面は作っていない。
小さい店ほどこの形になりがちですが、ここは罰則のあるところです。
労働条件通知書は渡すことが法律で義務づけられていて、渡していないと30万円以下の罰金の対象になります(労働基準法15条1項)。
しかも書く項目は自由ではなく、施行規則5条3項が明示すべき範囲を指定しています。
いま出回っている雛形の一部は、この欄が足りていません。
この記事では、夜の店で使えるテンプレートを無料で配布したうえで、始業・終業や賃金の欄に何を書くかを記入例で説明します。
読み終えたら、次に人を入れる日にそのまま渡せる1枚が手元にあります。
労働条件通知書のテンプレートに要る項目
何を書くかは自由ではありません。
労働基準法施行規則5条3項が、書面で明示しなければならない範囲を指定しています。
同条1項の1号から4号まで(昇給に関する事項を除く)です。
| 号 | 書面で明示する項目 |
|---|---|
| 一 | 契約期間 |
| 一の二 | 有期を更新する場合の基準(更新回数・通算期間の上限を含む) |
| 一の三 | 就業の場所・従事すべき業務(変更の範囲を含む) |
| 二 | 始業・終業の時刻、所定時間外労働の有無、休憩、休日、休暇、交替制 |
| 三 | 賃金の決定・計算・支払の方法、締切・支払の時期 |
| 四 | 退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
配布しているテンプレートは、この6つを全部持っています。
「変更の範囲」の欄が無いテンプレートに注意
一の三をよく見てください。
就業の場所と業務は、「変更の範囲を含む」と書かれています。
つまり「いまどこで何をするか」だけでなく、「将来どこまで変わりうるか」まで書く必要があります。
無料で配られている雛形の中には、この欄が無いものがあります。
古い様式をそのまま使うと、項目が足りません。
店が1つだけなら「変更の範囲:変更なし」と書けば足ります。
勤務時間を「シフトによる」とだけ書くのが足りない理由はシフトの一方的な変更は違法?で説明しています。
明示する「休暇」には年次有給休暇が含まれます。シフト制での付与日数の決め方はシフト制の有給休暇にまとめています。
労働条件通知書と雇用契約書は別のもの
混同されがちですが、性質が違います。
法律が義務づけているのは労働条件通知書のほうです。
| 労働条件通知書 | 雇用契約書 | |
|---|---|---|
| 性質 | 店から本人への通知 | 双方の合意 |
| 署名 | 本人の署名は不要 | 双方が署名する |
| 法律上の義務 | あり(労基法15条1項) | なし |
両方を1枚にまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」という形も広く使われています。
雇用契約書だけ作って通知書を渡していない、という状態は避けてください。
義務のほうが抜けています。
署名欄まで付いた兼用の様式は雇用契約書テンプレートで配布しています。
そちらには入れてはいけない条項(罰金・貸付金の相殺・天引き)の説明も付けました。
渡し方は書面が原則
施行規則5条4項が方法を定めています。
原則は書面の交付で、本人が希望した場合に限りFAXまたは電子メール等でも構いません。
ただし「出力して書面を作成できるもの」に限られます。
LINEのトークで条件を伝えただけ、という運用は避けたほうが無難です。
2部作って1部を本人に渡し、1部を店で保管してください。
夜の店で労働条件通知書を書くときの注意
配布ファイルには記入例のシートを付けました。
汎用の様式だと手が止まりやすい3か所について、書き方を補足します。
賃金の欄に深夜割増まで書く
ここが夜の店でいちばん大事なところです。
時給だけ書いて終わらせないでください。
22時から翌5時の労働には25%以上の割増が必要です(労働基準法37条4項)。
記入例では次のように書いています。
| 時給 1,500円 |
| 深夜割増:22:00〜翌5:00は25%増(時給1,875円) |
| 時間外割増:1日8時間を超えた分は25%増。深夜と重なる時間は50%増 |
| 締切:毎月末日 支払:翌月10日/支払方法:現金手渡し(本人へ直接) |
ここまで書いておくと、あとで「聞いていない」になりません。
割増率の考え方は深夜手当とは?割増率25%と計算方法、重なったときの率は深夜割増賃金の割増率にまとめています。
始業・終業は日をまたぐ形で書く
「始業20:00 終業翌1:00」のように、翌日であることが分かる書き方にしてください。
汎用の様式は日中勤務を前提にしているので、ここで手が止まります。
所定時間外労働の有無も欄があります。
繁忙日に延長することがあるなら「有」にしておいてください。
実際に1日8時間を超えさせるなら、36協定の届出も別に必要です。
そもそも「雇用」なのかを先に決める
労働条件通知書が要るのは、労働契約を結ぶ場合です。
ホステス等の報酬として払っている場合は、そもそも雇用ではないという整理になっていることがあります。
ただしどちらに当たるかは、契約書の題名ではなく実態で判断されます。
時間を指定して働かせ、指示のもとで仕事をさせているなら、名目が報酬でも雇用と見られることがあります。
源泉徴収の計算式も変わるので、ホステス報酬の源泉徴収を読んだうえで、税理士か社会保険労務士に確認してください。
明示する「休憩時間」に、店内で待たせている時間は含められません。線引きは手待ち時間は休憩にならないにまとめました。
労働条件通知書を渡さないとどうなるか
罰則があります。
労働基準法120条1号が15条違反を対象に挙げていて、30万円以下の罰金です。
それとは別に、実務で効いてくるのが15条2項です。
前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
労働基準法 第15条2項
「時給1,500円と言われたのに違った」という場合、本人はその場で辞められます。
予告期間もありません。
条件を曖昧にしたまま採用するのは、店にとってもリスクです。
労働条件通知書のあとに必要になる書類
採用時に渡して終わりではありません。
働き始めたあと、店には記録を作る義務があります。
| いつ | 何が要るか | 根拠 |
|---|---|---|
| 採用時 | 労働条件通知書 | 労基法15条1項 |
| 日々 | 労働時間の記録(タイムカード等) | 厚労省ガイドライン |
| 毎月 | 賃金台帳(深夜労働時間数まで) | 労基法108条・規則54条 |
| 支払時 | 給与明細(支払明細書) | 所得税法231条1項 |
日々の記録はタイムカードのExcelテンプレート、毎月の賃金台帳と明細は給与明細テンプレートを配布しています。
どちらも無料で登録も要りません。
手続き全体は個人事業主が従業員を雇うときにまとめました。
まとめ|労働条件通知書のテンプレートの使い方
- 渡すのは義務です(労基法15条1項)。違反は30万円以下の罰金(120条1号)
- 書面で明示する範囲は施行規則5条3項が指定しています。1号から4号まで
- 「変更の範囲」の欄がある様式を使ってください。古い雛形には無いことがあります
- 雇用契約書とは別物。義務があるのは通知書のほうです
- 賃金の欄に深夜割増まで書く。時給だけだと、あとで揉めます
- 始業・終業は日をまたぐ形で書く。「終業 翌1:00」のように
- 2部作って1部を本人へ、1部を店で保管してください
このテンプレートは一般的な様式で、記入例もあくまで例です。
実際の労働条件の設定や、雇用か報酬かの判断は、社会保険労務士・税理士・所轄の労働基準監督署に確認してください。
店のルールそのものを決める就業規則については就業規則は10人未満でも必要かで扱っています。
人を雇ったら労災保険の成立届が10日以内に必要です(業務委託キャストの労災)。
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この記事で参照した一次情報
- 労働基準法(15条・37条4項・108条・120条)
- 労働基準法施行規則(5条1項・3項・4項/54条)
- 所得税法(231条1項)
- 厚生労働省 労働条件通知書(一般労働者用・常用、有期雇用型)(公式様式・PDF)
- 東京労働局「様式集」(Word版などの各種様式)

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