遅刻したら3,000円、飛んだら5万円。
契約書に書いて本人が署名していれば有効だと思われがちですが、ここは合意があっても無効になる領域です。
夜の店でよく見かける取り決めの中に、書いても無効になるうえ罰則があるものが4つ混ざっています。
違約金の予定、貸付金と賃金の相殺、同意だけを根拠にした天引き、そして書面を渡さないことです。
罰則は労働基準法119条1号と120条1号にあります。
この記事では、労働条件通知書と兼ねた雇用契約書のテンプレートを無料で配布したうえで、入れてはいけない条項を条文で説明します。
読み終えたら、いま使っている契約書から消すべき条項が分かり、署名欄付きの1枚に差し替えられます。
雇用契約書のテンプレートが「兼」になっている理由
先に整理しておきます。
雇用契約書と労働条件通知書は別の書面で、法律が義務づけているのは通知書のほうです。
| 雇用契約書 | 労働条件通知書 | |
|---|---|---|
| 性質 | 双方の合意 | 店から本人への通知 |
| 署名 | 双方が署名する | 本人の署名は不要 |
| 法律上の義務 | なし | あり(労基法15条1項) |
つまり雇用契約書だけ作って通知書を渡していない状態は、義務のほうが抜けています。
だから実務では1枚に兼ねます。
配布しているテンプレートも兼用の形にして、署名欄を付けました。
通知書だけでよい場合は、署名欄のない労働条件通知書テンプレートのほうを使ってください。
書くべき項目は同じです。
雇用契約書に入れてはいけない条項
ここが本題です。
合意があっても無効になり、しかも罰則がある取り決めが4つあります。
どれも夜の店で実際に見かけるものです。
| よくある取り決め | 根拠 | 罰則 |
|---|---|---|
| 遅刻1回○円、無断欠勤で罰金○万円 | 労基法16条 | 6月以下の拘禁刑/30万円以下の罰金 |
| 貸したお金を給料から差し引く | 労基法17条 | 同上 |
| 給料の一部を強制的に積み立てさせる | 労基法18条1項 | 同上 |
| 衣装代・送り代を同意なく天引きする | 労基法24条1項 | 30万円以下の罰金 |
上3つの罰則は119条1号、いちばん下は120条1号です。
本人が納得して署名していても、条文に反する部分は効力を持ちません。
罰金・違約金を決めてはいけない(16条)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
労働基準法 第16条
禁じられているのは「あらかじめ金額を決めておくこと」です。
「遅刻したら3,000円」「飛んだら5万円」のような取り決めが該当します。
間違えやすいのですが、遅刻した分の賃金を払わないこと自体は問題ありません。
働いていない30分ぶんを支払わないのは、罰金ではなく単に「働いていない時間」だからです。
禁止されているのは、それを超えてペナルティを課すことです。
貸したお金を給料から引いてはいけない(17条)
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
労働基準法 第17条
ここは誤解されやすいところです。
お金を貸すこと自体は禁止されていません。
禁じられているのは「賃金と相殺すること」です。
安全なやり方は、給与は全額を払ったうえで、返済は別のやり取りにすることです。
手間は増えますが、給料日に差し引く形にすると条文に触れます。
天引きには労使協定が要る(24条1項)
労働基準法24条1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めています。
衣装代・備品代・送り代などを勝手に引くことはできません。
控除できるのは、法令に定めがある場合(所得税・社会保険料など)か、労働者の過半数代表との書面による協定がある場合だけです。
本人の口頭の同意だけでは足りません。
衣装や備品は、費用を負担させるのではなく店が貸与する形にしておくのがいちばん揉めません。
配布テンプレートの記入例もその書き方にしてあります。
雇用契約書の特約事項に書いておくこと
逆に、書いておいたほうがいいものです。
口約束で済ませているものほど、あとで食い違います。
テンプレートには「特約事項」の欄を用意しました。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| バック | 指名1本につき○○円を加算して支払う(賃金に含む) |
| 日払い | 本人の申し出により当月分の一部を前渡しする。前渡し分は当月の給与計算で既払いとして差し引く |
| シフト | 前月20日までに希望を提出し、25日までに確定する |
| 衣装・備品 | 店が貸与する(費用は本人に負担させない) |
日払いは「前渡し」なので、月末の計算で既払いとして差し引くのは控除ではありません。
貸付とは扱いが違います。
混ぜないでください。
バックを賃金に含めるかどうか
指名バックや同伴バックを賃金として払う場合、割増賃金の基礎に入るかどうかの判断が必要になります。
基礎から外せる賃金は労基法37条5項と施行規則21条が限定列挙していて、そこに書かれていないものは基礎に入るのが原則です。
深夜割増の計算に影響するので、歩合的な支払いがある場合は税理士か社会保険労務士に一度見てもらってください。
割増の考え方は深夜手当とは?割増率25%と計算方法にまとめています。
雇用契約書を作る前に決めること
そもそも雇用なのかどうかです。
ホステス等の報酬として払っている場合、雇用ではないという整理になっていることがあります。
その場合は労働基準法そのものが適用されません。
ただしどちらに当たるかは、書面の題名ではなく実態で判断されます。
時間を指定して働かせ、指示のもとで仕事をさせているなら、名目が報酬でも雇用と見られることがあります。
源泉徴収の計算式も変わります。
給与なら税額表、報酬なら(報酬 − 5,000円×計算期間の日数)× 10.21% という特殊な計算です。
詳しくはホステス報酬の源泉徴収を読んだうえで、税理士か所轄税務署に確認してください。
シフトで入る日数を決めていない場合、あとから「シフトを入れない」ことが解雇や雇止めの問題になります。線引きはシフトを入れないのは解雇?にまとめています。
雇用契約書のあとに必要になる書類
契約して終わりではありません。
働き始めたあと、店には記録を作る義務があります。
| いつ | 何が要るか | 根拠 |
|---|---|---|
| 採用時 | 労働条件通知書(兼 雇用契約書) | 労基法15条1項 |
| シフトを組むとき | シフト表 | — |
| 日々 | 労働時間の記録(タイムカード等) | 厚労省ガイドライン |
| 毎月 | 賃金台帳(深夜労働時間数まで) | 労基法108条・規則54条 |
| 支払時 | 給与明細(支払明細書) | 所得税法231条1項 |
シフトはシフト表テンプレート、日々の記録はタイムカードのExcelテンプレート、毎月の賃金台帳と明細は給与明細テンプレートを配布しています。
手続き全体は個人事業主が従業員を雇うときにまとめました。
まとめ|雇用契約書のテンプレートの使い方
- 義務があるのは労働条件通知書のほうです(労基法15条1項)。1枚に兼ねるのが実務的です
- 罰金・違約金を決めてはいけません(16条)。遅刻分の賃金を払わないことは別の話です
- 貸したお金を給料から相殺してはいけません(17条)。貸すこと自体は禁止ではありません
- 天引きには労使協定が要ります(24条1項)。口頭の同意だけでは足りません
- バック・日払い・シフトは特約事項に書く。口約束はあとで食い違います
- 2部作って双方が署名し、1部ずつ持ってください
このテンプレートは一般的な様式で、記入例もあくまで例です。
実際の労働条件や特約の設定、雇用か報酬かの判断は、社会保険労務士・税理士・所轄の労働基準監督署に確認してください。
外国人を雇うときに先に確かめる点はスナック・ガールズバーで外国人を雇えるかで扱っています。
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この記事で参照した一次情報
- 労働基準法(15条・16条・17条・18条・24条・37条5項・108条・119条・120条)
- 労働基準法施行規則(5条・21条・54条)
- 所得税法(231条1項)
- 東京労働局「様式集」(公式の労働条件通知書ほか)

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