扶養している家族がいないから、扶養控除等申告書は出さなくていい。
そう思って渡していないと、毎月の所得税が何倍にもなります。
扶養控除等申告書は、出すか出さないかで毎月引かれる所得税が数倍変わる書類です。
そして令和8年分から中身が変わりました。
「控除対象扶養親族」という欄が「源泉控除対象親族」に変わり、扶養に入れる所得の基準も上がっています。
古い記入例をそのまま真似すると間違えます。
この記事では、令和8年分の変更点と、掛け持ちしている人が2か所に出せない理由を順に書きます。
読み終えたら、スタッフに配る用紙のどの欄に何を書いてもらえばいいかが分かります。
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扶養控除等申告書は何のために出す書類か
正式には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」といいます。
毎月の給与から引く所得税を決めるための書類で、根拠は所得税法194条です。
国内において給与等の支払を受ける居住者は、その給与等の支払者(その支払者が二以上ある場合には、主たる給与等の支払者)から毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに……申告書を、当該給与等の支払者を経由して……所轄税務署長に提出しなければならない。
所得税法 第194条1項
読みどころが2つあります。
期限は「その年最初の給与日の前日まで」であること。
そして支払者が2か所以上あるときは「主たる」1か所にだけ出すことです。
後者は掛け持ちの人に直接効くので、あとで章を分けます。
出す・出さないで引かれる額が変わる
この書類を出した人には税額表の甲欄、出していない人には乙欄を使います。
乙欄はかなり高くなります。
令和8年分の日額表で比べると、こうです。
| その日の給与(社会保険料等を引いた後) | 甲欄(扶養0人) | 乙欄 |
|---|---|---|
| 8,000円 | 195円 | 1,090円 |
| 12,000円 | 420円 | 2,440円 |
| 15,000円 | 670円 | 3,940円 |
同じ12,000円でも約6倍違います。
扶養する家族がいなくても、出せば甲欄になります。
「書くことがないから出さなくていい」というものではありません。
計算の全体像は給与計算のやり方にまとめました。
提出先は税務署ではなくお店
条文に「税務署長に提出しなければならない」とあるので自分で送るのかと思われがちですが、違います。
お店に出せば、それで提出したことになります。
これらの規定による申告書がその提出の際に経由すべき給与等の支払者に受理されたときは、その申告書は、その受理された日に……税務署長に提出されたものとみなす。
所得税法 第198条1項
お店の側も、受け取った申告書を税務署に送る必要はありません。
手元で保管しておき、税務署から求められたときに出します。
令和8年分の扶養控除等申告書はここが変わった
令和7年度の税制改正で、書き方に直接影響する変更が入りました。
令和7年分までの記入例を見ながら書くと、欄そのものが違うので迷います。
「控除対象扶養親族」が「源泉控除対象親族」になった
いちばん大きい変更です。
国税庁の案内にこう書かれています。
令和7年分までの「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」には、「控除対象扶養親族」を記載することになっていましたが、令和8年分以後……には、「源泉控除対象親族」(①控除対象扶養親族又は②特定親族のうち合計所得金額が100万円以下の人のいずれかに該当する人)を記載することとされましたので、記載誤りのないよう、ご注意ください。
国税庁「令和7年・令和8年分の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書について」
つまり書く対象の範囲が広がりました。
これまでの控除対象扶養親族に加えて、19歳以上23歳未満で合計所得100万円以下の家族も書くことになります。
扶養に入れる所得の基準が上がった
家族を扶養に入れられるかどうかの基準も変わりました。
数字が変わっているので、去年の感覚のままだと判断を間違えます。
| 区分 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 扶養親族・同一生計配偶者 | 48万円以下 (給与だけなら103万円以下) | 58万円以下 (給与だけなら123万円以下) |
| 勤労学生 | 75万円以下 (給与だけなら130万円以下) | 85万円以下 (給与だけなら150万円以下) |
あわせて特定親族特別控除が新しくできました。
19歳以上23歳未満で合計所得58万円超123万円以下の家族がいる場合、1人につき63万円を限度に所得に応じた額を控除できるものです。
「103万円の壁」は2つに分かれた
ここが混乱のもとです。
よく言われる「壁」は、実は別の数字が2つあります。
- 自分に所得税がかからない上限=160万円(給与所得控除65万円+基礎控除95万円)
- 親などの扶養に入っていられる上限=123万円(合計所得58万円)
この2つは別物です。
123万円を超えると、自分に所得税がかからなくても、親の側の扶養控除が外れます。
学生スタッフに説明するときはここを分けて伝えてください。
金額のラインは夜職の確定申告にも書きました。
扶養控除等申告書の書き方を欄ごとに見る
実際に書く順に見ていきます。
該当がない欄は空欄のままで構いません。
全部埋める必要はありません。
上の段(お店の情報と自分の情報)
お店の名称・所在地・法人番号はお店が入れる欄です。
空欄で渡されたら聞いてください。
自分で書くのは氏名・マイナンバー・住所・生年月日・世帯主との続柄・配偶者の有無です。
「配偶者の有無」は控除を受けられるかどうかではなく、結婚しているかどうかを書く欄です。
共働きでも「有」です。
源泉控除対象配偶者・源泉控除対象親族
ここが本体です。
令和8年分から「源泉控除対象親族」という名前になった欄で、対象は次のどちらかに当てはまる家族です。
- 控除対象扶養親族(生計を一にする16歳以上の親族で、合計所得58万円以下)
- 特定親族のうち合計所得100万円以下の人(19歳以上23歳未満)
所得の見積額はその年の見込みで書きます。
年が終わってからの確定額ではありません。
見込みが変わったら、あとで異動申告書を出して直します。
16歳未満の扶養親族は下の欄に書く
16歳未満の子どもは扶養控除の対象外なので、上の欄ではなくいちばん下の「16歳未満の扶養親族」欄に書きます。
控除がないなら書かなくていいと思われがちですが、住民税の非課税判定に使うので書いてください。
令和8年分は「異動なし」だけで済むことがある
これは条文で認められている書き方です。
所得税法194条2項が、前年と変わっていなければ中身を書く代わりに「異動がない」とだけ書いて出せると定めています。
当該申告書に記載すべき事項がその年の前年において当該支払者を経由して提出した……申告書……に記載した事項と異動がないときは、居住者は、前項の規定により記載すべき事項に代えて当該異動がない旨を記載した……申告書を提出することができる。
所得税法 第194条2項
これに対応する様式として、国税庁が令和8年分の【簡易対応様式】を公開しています。
「前年の申告内容からの異動 □なし」にチェックすれば、網掛け部分以外は書かなくてよいという作りです。
令和7年分にはこの様式が用意されていないので、使うのは令和8年分からになります。
条件は「記載すべき事項の全部が前年と同じ」であることです。
たとえば子どもが19歳になって区分が変わった場合や、前年は源泉控除対象親族だった家族が今年は該当しなくなった場合は、異動があったことになるので使えません。
ただし所得の見積額が少し動いただけなら、異動がないものとして扱ってよいとされています(源泉控除対象配偶者なら見積額95万円以下、控除対象扶養親族なら62万円以下の場合など)。
判断が細かいので、迷ったら国税庁の「簡易な扶養控除等申告書に関するFAQ」を確認するか、税理士に聞いてください。
掛け持ちしている人の扶養控除等申告書
夜のお店でいちばん多い相談がこれです。
結論は「出せるのは1か所だけ」です。
194条が「支払者が二以上ある場合には、主たる給与等の支払者」と書いているとおりで、2か所に出すことはできません。
どちらのお店に出すか
条文でいう「主たる給与等の支払者」なので、ふつうは収入の多いほうのお店に出します。
出したお店が甲欄、出していないお店が乙欄になります。
先の表のとおり乙欄は甲欄の6倍前後なので、金額の大きいほうを甲欄にしたほうが、月々の手取りは多くなります。
ただしこれは前払いの調整の話で、1年の税額そのものが変わるわけではありません。
引かれすぎた分は年末調整か確定申告で戻ります。
サブのお店にも別の申告書がある
あまり知られていませんが、「従たる給与についての扶養控除等申告書」という別の書類があります。
主たる給与だけでは控除しきれない場合に、サブのお店の給与からも控除を受けるためのものです。
使う場面は限られるので、まずは「メインのお店に1枚出す」で問題ありません。
該当しそうなら税務署か税理士に確認してください。
掛け持ちの人が確定申告をするかどうかは、副業が給与か報酬かで判定が変わります。境目はダブルワークの確定申告で整理しています。
扶養控除等申告書を出さない・出せない場合
そもそも対象外という人もいます。
ここを知らずに「書類をくれない」と揉めることがあります。
報酬でもらっている人は対象外
194条は「給与等の支払を受ける居住者」の話です。
キャストとして報酬で受け取っている場合は給与ではないので、この申告書は出しません。
源泉徴収の計算式もまったく別で、ホステス報酬の源泉徴収のほうになります。
同じ理由で、報酬の人には源泉徴収票も出ません。
この関係は源泉徴収票がもらえないときは?で整理しています。
2か月以内の短期なら要らない
日給・時給で、あらかじめ雇用契約の期間が2か月以内と決まっている場合は、税額表の丙欄を使います。
丙欄には扶養控除等申告書の提出が関係しないので、書いてもらう必要がありません。
ただし2か月を超えて続けて働いてもらうことになったら、超えた部分は丙欄を使えません。
そのタイミングで申告書を書いてもらい、甲欄に切り替えます。
短期のつもりが続いている人は、ここが抜けやすいところです。
出さないままだと年末調整も受けられない
出さない選択もできますが、乙欄で毎月多めに引かれたうえ、年末調整の対象にもなりません。
その場合は自分で確定申告をして精算することになります。
手順は夜職の確定申告に書きました。
乙欄だと年末調整ができない理由と、掛け持ちの人がどう精算するかは乙欄は年末調整できないにまとめました。
健康保険・厚生年金のほうは申告書と関係なく勤務先ごとに判定するので、そちらはダブルワークの社会保険を見てください。
申告書を出していないのに何も引かれていないなら、別の理由を疑う場面です。3つの可能性はアルバイトで源泉徴収されていない3つの理由で整理しました。
店側が扶養控除等申告書を受け取ったあとにやること
集めて終わりではありません。
お店の側にも義務があります。
- 税務署には送らない。受理した日に提出されたものとみなされます(198条1項)
- 保管する。提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間です
- 甲欄で源泉徴収する。扶養親族等の数に応じて税額表の列を選びます
- 年の途中で変わったら異動申告書を出してもらう
マイナンバーが書かれた書類なので、保管方法にも気を配ってください。
渡す給与明細のほうにはマイナンバーを書きません。
明細と賃金台帳のひな形は給与明細のテンプレートに置いてあります。
採用時に何をそろえるかは雇用契約書のテンプレートにまとめました。
雇用契約書と一緒に、その年の扶養控除等申告書も書いてもらうと取りこぼしません。
甲欄で計算した結果は、毎回の給与明細に出します。渡していないときに何が起きるかは給与明細がもらえないのは違法?で整理しました。
まとめ|扶養控除等申告書の書き方で外さない点
- 期限はその年最初の給与日の前日まで(所得税法194条1項)
- 提出先はお店。受理された日に税務署へ提出したものとみなされます(198条1項)
- 出せば甲欄、出さなければ乙欄。同じ日額12,000円で420円と2,440円の差
- 扶養する家族がいなくても出す意味がある
- 掛け持ちは1か所だけ。ふつうは収入の多いお店に出します
- 令和8年分から「源泉控除対象親族」に変わった。19〜23歳で合計所得100万円以下の家族も対象
- 扶養に入れる基準は合計所得58万円(給与だけなら123万円)に上がった
- 「壁」は2つある。自分に所得税がかからないのは160万円、扶養に入っていられるのは123万円
- 16歳未満は下の欄に書く。控除はなくても住民税の判定に使います
- 報酬の人と、契約2か月以内の短期は対象外
- 店側は税務署に送らず、7年間保管する
この記事は一般的な整理です。
家族構成や所得の状況で判断が変わる箇所があるので、迷ったら所轄の税務署か税理士に確認してください。
様式と記載例は毎年更新されるので、書くときは必ずその年分のものを使ってください。
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この記事で参照した一次情報
- 所得税法(194条1項・194条2項・195条・198条1項)
- 国税庁 各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)
- 国税庁 令和7年・令和8年分の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書について(PDF)
- 国税庁 簡易な扶養控除等申告書に関するFAQ(PDF・令和8年8月改訂)
- 国税庁 No.2511 税額表の種類と使い方
- 国税庁 令和8年分 源泉徴収税額表

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