所得税の調査という通知が来たので、その範囲だけ準備しておけばいいと思っている。
夜の店の調査は、そこで止まらないようにできています。
キャバクラの税務調査でいちばん効くのは、通知された税目以外にも調査が広がる条文です。
国税通則法74条の9第4項が、非違が疑われた事項については事前通知なしで質問検査等ができるとしています。
所得税の調査として通知が来ても、キャストへの支払いの源泉徴収に話が移るのはこの条文によります。
この記事では、事前通知の中身から加算税の実額、終了の手続きまでを条文で整理します。
読み終えたら、通知を受けた時点で何を揃えておけばいいかが決まります。
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キャバクラの税務調査は事前通知から始まる
実地の調査をするとき、税務署は原則として先に通知します。
根拠は国税通則法74条の9第1項です。
何をどこまで通知するかまで条文に書かれています。
通知されるのは7項目
- 1号:調査を開始する日時
- 2号:調査を行う場所
- 3号:調査の目的
- 4号:調査の対象となる税目
- 5号:調査の対象となる期間
- 6号:調査の対象となる帳簿書類その他の物件
- 7号:その他政令で定める事項
税目と期間が先に示されるので、どこまで用意すればよいかは通知の時点で分かります。
税理士に税務代理権限証書を出してもらっていれば、その税理士にも通知が届きます。
通知は電話で来る。書面はもらえない
通知の方法は、意外なことに条文に書かれていません。
国税庁の「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」の問12が、この点を明記しています。
実地の調査の事前通知の方法は、法令上は規定されておらず、原則として電話により口頭で行うこととしています。(中略)電話による事前通知が困難と認められる場合は、税務当局の判断で書面によって事前通知を行う場合もありますが、納税者の方からの要望に応じて事前通知内容を記載した書面を交付することはありません。
国税庁 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)問12
通知書が届くのを待っていると、その間に調査日が来ます。
電話を受けた人が7項目をその場で書き取れるようにしておいてください。
日時と場所は変更を求められる
74条の9第2項に、変更を求める手続きが書かれています。
納税義務者から「合理的な理由を付して」1号または2号の変更を求められた場合、税務署長等は協議するよう努めるものとされています。
変更を求められるのは日時と場所の2つだけで、税目や期間は対象外です。
棚卸しや決算の時期と重なるなど、理由が説明できるなら日程の相談はできます。
事前通知が来ないこともある
74条の10が例外を定めています。
申告や過去の調査結果の内容、営む事業内容に関する情報などに鑑みて「正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」などがあると認める場合は、通知が要りません。
現金でのやりとりが多い業種は、この判断の対象になりやすい側にいます。
通知が無いこと自体は違法ではないので、来店されたら日々の記録を出せる状態にしておくことが備えになります。
税務調査は通知された税目の外にも広がる
ここが夜のお店でいちばん効く部分です。
通知は3号から6号までで目的・税目・期間・帳簿を絞りますが、その外側に条文が用意されています。
74条の9第4項です。
非違が疑われた事項には通知が要らない
第一項の規定は、当該職員が、当該調査により当該調査に係る同項第三号から第六号までに掲げる事項以外の事項について非違が疑われることとなつた場合において、当該事項に関し質問検査等を行うことを妨げるものではない。
国税通則法74条の9第4項
後段で「同項の規定は、当該事項に関する質問検査等については、適用しない」として、事前通知の対象から外しています。
つまり調査中に見つかった別の疑いについては、あらためて通知されません。
所得税の調査から源泉徴収に飛ぶ
夜のお店で典型的なのがこの流れです。
売上と経費を見ているうちに、キャストへの支払いの帳簿が出てきます。
そこから所得税法204条1項6号のホステス報酬の源泉徴収をしているかに移ります。
ホステス報酬の計算は税額表を使わない別計算なので、ホステス報酬の源泉徴収を先に確認しておいてください。
答弁しない・帳簿を出さないことには罰則がある
質問検査権は国税通則法74条の2にあります。
これに対して答弁せず、偽りの答弁をし、検査を拒み・妨げ・忌避した場合は、同法128条2号で1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
128条3号は、正当な理由なく物件の提示・提出の要求に応じない場合と、偽りの記載をした帳簿書類を提示・提出した場合を同じ罰則にしています。
夜の店の税務調査で見られる4か所
業種に共通する論点ではなく、夜のお店だから出てくる箇所をまとめます。
どれも「記録が残っているか」で決まります。
先に整えておけば、調査の場で作る書類は減ります。
現金の売上と売掛の残り
伝票・レジの記録・日報・通帳が突き合わされます。
売掛は、計上した時期と回収できたかが別々に見られます。
キャストに回収責任を負わせている店は、その処理も論点になります。
売掛の扱いはキャストの売掛で別に整理しました。
キャストへの支払いが給与か報酬か
所得税法204条2項1号は、報酬・料金のうち給与等に該当するものを204条の対象から外しています。
どちらに当たるかで、源泉徴収の方法も消費税の扱いも変わります。
契約書の表題ではなく働き方の実態で判断されるため、ここが一番揺れます。
判断の分かれ目はキャストの業務委託で裁判例を並べています。
帳簿と請求書が無いと仕入税額控除が消える
消費税法30条7項が、帳簿及び請求書等を保存しない場合には仕入税額控除を適用しないとしています。
ただし書で除かれるのは、災害その他やむを得ない事情を事業者が証明した場合だけです。
支払った事実があっても、記録が無ければ控除だけが消えます。
30条8項1号は、帳簿に相手方の氏名・年月日・内容・支払対価の額を記載することを求めています。
名簿と賃金台帳が突き合わされる
誰が何日働いたかは、税務の帳簿だけでは確かめられません。
風営法36条の従業者名簿と労働基準法108条の賃金台帳は、店に備わっている前提の書類です。
この2つと支払額が合っていれば、説明の手間はかなり減ります。
名簿の様式は従業者名簿テンプレートで配布しています。
税務調査で追加になる加算税の実額
修正申告や納税の告知になると、本税のほかに加算税が乗ります。
割合は国税通則法65条から68条までに書かれています。
調査の連絡が来る前に自分で直したかどうかで、率が変わる作りです。
加算税の割合は4種類ある
| 種類 | 原則 | 調査を予知する前に直した場合 |
|---|---|---|
| 過少申告加算税(65条) | 10%(一定額を超える部分は15%) | 5% |
| 無申告加算税(66条) | 15%(50万円超は20%・300万円超は30%) | 各5%減 |
| 不納付加算税(67条) | 10% | 5% |
| 重加算税(68条) | 過少申告35%/無申告40%/不納付35% | ― |
調査通知の前に直せば過少申告加算税はつかない
表には収まらない段が、実はもう1つあります。
65条6項は、調査通知がある前に予知せずに出した修正申告には65条1項を適用しないとしています。
ここでいう調査通知とは、74条の9第1項4号(税目)と5号(期間)などの通知のことです。
- 調査通知の前:加算税なし(65条6項)
- 通知の後・予知の前:5%
- 予知の後:10%
電話で税目と期間を告げられた時点で、0%の枠は閉じます。
源泉徴収の漏れに当たるのは不納付加算税です。
67条3項は、法定納期限から1か月を経過する日までに納付し、かつ政令で定める場合に当たるときは不納付加算税を課さないとしています。
気づいた時点ですぐ納めれば、加算税が付かない道が条文に用意されています。
キャスト1人・月50万円で年42万円の漏れになる
ホステス報酬の源泉徴収をまったくしていなかった場合で計算します。
- 控除額:5,000円 × 30日 = 150,000円(所得税法施行令322条)
- 1か月の源泉徴収税額:(500,000円 − 150,000円)× 10.21% = 35,735円
- 1年:35,735円 × 12か月 = 428,820円
- 不納付加算税:428,820円 × 10% = 42,882円
これに延滞税が別に付きます。
隠蔽または仮装があったとされると、68条3項で35%になり150,087円です。
遡られるのは5年。不正があれば7年
国税通則法70条1項は、更正または決定を法定申告期限から5年を経過した日以後はできないとしています。
ただし70条5項1号で、偽りその他不正の行為により税額を免れた場合は7年に延びます。
さきほどの428,820円が7年分なら3,001,740円で、加算税と延滞税はその上に乗ります。
68条4項は、過去に加算税を課されたことがある場合などに10%を加算するとも定めています。
税務調査が終わるときの手続き
終わり方も国税通則法74条の11に書かれています。
問題なしのときと、直すべきものがあるときで手続きが違います。
署名する前に知っておきたいのは3項です。
問題がなければ書面で通知される
74条の11第1項は、更正決定等をすべきと認められない場合に、その旨を書面により通知するとしています。
口頭で終わりではありません。
直すべきものがある場合は、2項で調査結果の内容を説明することになっています。
修正申告を出すと不服申立てができなくなる
74条の11第3項は、調査官が修正申告または期限後申告を勧奨できるとしています。
そのうえで「当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない」と定めています。
納得できていないなら、書面を受け取った段階で税理士に相談してください。
終わったあとでも再び調べられる
74条の11第5項は、通知や修正申告のあとでも、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは質問検査等を行えるとしています。
一度終わったから以後は来ない、という条文の作りにはなっていません。
指摘された箇所を直したうえで、記録の残し方そのものを変えておくのが結局いちばん早い対応になります。
まとめ:キャバクラの税務調査は記録で決まる
- 事前通知:74条の9第1項の7項目。日時と場所だけ変更を求められる
- 通知なし:74条の10に例外がある
- 広がる根拠:74条の9第4項。非違が疑われた事項には通知が要らない
- 見られる4か所:現金と売掛/給与か報酬か/帳簿と請求書/名簿と賃金台帳
- 加算税:調査通知の前なら過少申告加算税なし(65条6項)。不納付は1か月以内の納付で課されない道がある(67条3項)
- 期間:原則5年、不正があれば7年(70条5項1号)
毎月の計算を先に整えておくのが、いちばん確実な備えになります。
計算の流れは給与計算のやり方にまとめています。
帳簿の記載要件はインボイスの経過措置でも扱っています。
この記事は条文をもとにした一般的な整理です。
調査の対応や税額の判断は個別の事情で結論が変わるため、実際の対応は税理士に相談してください。
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この記事で参照した一次情報
- 国税通則法(65条・66条・67条・68条・70条・74条の2・74条の9・74条の10・74条の11・128条)
- 所得税法(204条)
- 所得税法施行令(322条)
- 消費税法(30条)
- 国税庁 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)(令和8年7月一部改訂)
- 国税庁 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)

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