掛け持ちしている店から「うちでは年末調整できない」と言われた。
断られた側からすると、雑に扱われたように感じるところです。
乙欄で源泉徴収されている人は、法律の仕組み上そもそも年末調整を受けられません。
店が忘れているわけでも、意地悪をしているわけでもありません。
ただし乙欄は多めに引かれているので、そのままだと払いすぎで終わります。
精算するには確定申告が必要です。
この記事では、掛け持ちと転職で扱いが違うところも含めて、順に書きます。
読み終えたら、自分が確定申告で精算する側なのかどうかが分かります。
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乙欄の人は年末調整の対象にならない
まず用語を整えます。
甲欄と乙欄は、扶養控除等申告書を出したかどうかで決まります。
出した人が甲欄、出していない人が乙欄です。
| 扶養控除等申告書 | 毎月の源泉徴収 | 年末調整 | |
|---|---|---|---|
| 甲欄 | 出している | 安い | 受けられる |
| 乙欄 | 出していない | 高い | 受けられない |
掛け持ちで働いている場合、申告書を出せるのは1か所だけなので、もう一方は必ず乙欄になります。
書類の出し方は扶養控除等申告書の書き方にまとめました。
なお社会保険はこれとは別の判定で、勤務先ごとに加入するかを決めます(ダブルワークの社会保険)。
そもそも1円も引かれていないなら、乙欄ですらない可能性があります。理由の切り分けはアルバイトで源泉徴収されていない3つの理由にまとめました。
なぜ乙欄だと年末調整ができないのか
根拠は所得税法190条です。
条文の書き出しに、対象になる人がはっきり書かれています。
給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、……その年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合……
所得税法 第190条
読み取れる条件は3つです。
①扶養控除等申告書を出していること ②年収2,000万円以下であること ③年末調整をするのは「その申告書を出した先のお店」であること。
乙欄の人は①を満たしていません。
だから対象外になります。
国税庁も「年末調整の対象となる人は、『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』を年末調整を行う日までに提出している一定の人です」と書いています。
「うちでは年末調整しません」と言われたら
サブで働いているお店からそう言われても、それが正しい対応です。
お店の側に選択肢はありません。
ただしそのお店にも源泉徴収票を出す義務はあります。
年末調整をしないことと、源泉徴収票を渡さないことは別の話です。
もらえない場合の手続きは源泉徴収票がもらえないときは?に書きました。
掛け持ちと転職では年末調整の扱いが違う
ここがいちばん混同されるところです。
「前のお店の分も合わせてやってもらえる」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、それは転職の場合であって、掛け持ちの場合ではありません。
転職なら前のお店の分も合算できる
190条1号のかっこ書きが、前の勤め先の給与を含めると定めています。
その居住者がその年において他の給与等の支払者を経由して他の給与所得者の扶養控除等申告書を提出したことがある場合には、当該他の給与等の支払者がその年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等で政令で定めるものを含む
所得税法 第190条1号
年の途中で辞めて次のお店に移ったなら、前のお店の源泉徴収票を今のお店に渡せば、合算して年末調整してもらえます。
辞めたお店から源泉徴収票をもらっておくのは、このためです。
掛け持ちは合算できない
同時に2か所で働いている場合は違います。
メインのお店は、自分のところの給与だけで年末調整をします。
サブのお店の給与は入りません。
理由は先の条文で、合算できるのは「扶養控除等申告書を提出したことがある」支払者の給与だけだからです。
サブのお店には申告書を出していないので、対象になりません。
つまり掛け持ちの人は、年末調整だけでは1年分の精算が終わりません。
その確定申告でいくら戻るのかはダブルワークの確定申告で試算しています。
メインの分は年末調整で、サブの分は自分で確定申告する形になります。
乙欄で引かれた分は確定申告で精算する
放っておくと払いすぎのままです。
乙欄は甲欄より大幅に高い率で引かれているので、確定申告をすると戻ってくることがよくあります。
乙欄はどれくらい多く引かれているか
令和8年分の日額表で比べます。
金額は社会保険料等を引いたあとの、その日の給与です。
| その日の給与 | 甲欄(扶養0人) | 乙欄 | 差 |
|---|---|---|---|
| 8,000円 | 195円 | 1,090円 | 約5.6倍 |
| 10,000円 | 265円 | 1,800円 | 約6.8倍 |
| 12,000円 | 420円 | 2,440円 | 約5.8倍 |
| 15,000円 | 670円 | 3,940円 | 約5.9倍 |
おおむね6倍前後です。
週2日サブのお店に入っているだけでも、1年分にすると小さくない額になります。
乙欄は「あとで精算する前提で、多めに預かっている」状態だと考えてください。
確定申告に必要なもの
そろえるのは、働いたお店すべての源泉徴収票です。
メインの分(年末調整済み)とサブの分(乙欄)を両方合わせて申告します。
ただし確定申告書に源泉徴収票を添付する必要はありません。
平成31年4月1日以後に提出する申告書からは添付・提示が不要になっています。
手元の数字を書き写すために使うもの、と考えてください。
手順は夜職の確定申告にまとめました。
なお、キャストとして報酬で受け取っている分がある場合は、給与とは別に計算します。
源泉徴収の式そのものが違うので、ホステス報酬の源泉徴収のほうを見てください。
甲欄でも年末調整の対象外になる人
申告書を出していても対象外になる場合があります。
国税庁が挙げている除外は2つです。
- 1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円を超える人
- 災害減免法により、その年の給与に対する源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
あわせて年の途中で辞めた人も、原則として年末調整の対象になりません。
ただし例外があり、パートタイマーなどが退職した場合でその年に受ける給与の総額が123万円以下のときは、辞めた時点で年末調整をします(その年に他から給与を受ける見込みがある人は除きます)。
この123万円は令和7年度の改正で上がった数字です。
103万円と書いてある古い解説が残っているので、注意してください。
それから丙欄の人も対象外です。
契約が2か月以内と決まっている日払い・短期の人は扶養控除等申告書そのものを出さないので、年末調整に乗りません。
店側が乙欄の人に対してやること
お店の側の整理です。
「年末調整はしない、源泉徴収票は出す」が基本形になります。
- 年末調整はしない。190条の対象外なので、やること自体ができません
- 源泉徴収票は交付する。乙欄でも例外なく、すべての受給者に渡します
- 毎月は乙欄で源泉徴収する。甲欄の税額表と間違えないこと
- 「確定申告が必要になる」と伝えておく。本人が知らないまま年を越すことが多いところです
2番目を落とさないでください。
源泉徴収票の交付は年末調整とは関係なく義務で、罰則もあります。
期限は翌年1月31日まで、年の途中で辞めた人は退職の日以後1か月以内です。
毎月の計算そのものは給与計算のやり方にまとめてあります。
甲欄・乙欄・丙欄の判定を間違えると、年末になってから直すのが大変です。
採用の時点で決めておくのが結局いちばん早い方法です。
まとめ|乙欄と年末調整で外さない点
- 乙欄の人は年末調整を受けられない。お店の都合ではなく所得税法190条の要件です
- 甲欄・乙欄は扶養控除等申告書を出したかどうかで決まる
- 掛け持ちなら申告書は1か所だけ。もう一方は必ず乙欄になります
- 転職は前の店の分を合算できる。掛け持ちは合算できません。ここが混同されます
- 乙欄は甲欄のおおむね6倍引かれている。放っておくと払いすぎのままです
- 精算は確定申告。働いたお店すべての源泉徴収票の数字を使います
- 源泉徴収票の添付は不要(平成31年4月1日以後に提出する申告書から)
- 甲欄でも年収2,000万円超は対象外。年の途中の退職も原則対象外です
- 退職者の例外ラインは123万円。令和7年度の改正で103万円から上がりました
- 店側は年末調整をしなくても、源泉徴収票は全員に交付する
日々雇い入れる人には乙欄ではなく丙欄を使います(日雇いの源泉徴収と丙欄)。
報酬で払っている相手には源泉徴収票ではなく支払調書です(ホステス報酬の支払調書)。
この記事は一般的な整理です。
雇用の形や収入の状況で結論が変わることがあるので、迷ったら所轄の税務署か税理士に確認してください。
税額表は毎年改定されるので、金額はその年分のものを確認してください。
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この記事で参照した一次情報
- 所得税法(190条・194条・226条1項)
- 国税庁 No.2665 年末調整の対象となる人
- 国税庁 No.2511 税額表の種類と使い方
- 国税庁 令和8年分 源泉徴収税額表(日額表)
- 国税庁 国税関係手続が簡素化されました(源泉徴収票の添付不要)

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