無料の給与計算ソフトを入れてみたが、夜の店の勤務を入れると答えが合わない。
有料版にすれば解決すると思われがちですが、原因はそこではありません。
給与計算を無料でやる方法は3つありますが、夜のお店では共通して4か所で壊れます。
日をまたぐ勤務、深夜割増、掛け持ちの税額表、そして給与ではない報酬の4つです。
とくに最後の1つは、有料のソフトに変えても解決しません。
給与計算ソフトは給与を計算するものなので、ホステス報酬のように給与でない支払いは扱えないからです。
この記事では、無料でやる3つの方法を比べたうえで、壊れる4か所と、落としたときにいくら戻ってくるのかを条文で整理します。
読み終えたら、自分の店の払い方に合う方法を選んで、壊れる箇所を先に潰せます。
紙とExcelの給与計算を、LINEだけで終わらせる
シメルンは、スナック・ガールズバー・小さなバーのための給与計算サービスです。スタッフが出勤と退勤の時刻をLINEから入れて、オーナーが確認して確定すると、月末に支給額が出ます。日をまたぐ勤務と深夜割増の計算は、こちらで持ちます。
- アプリのインストールは不要。LINEの中で完結します
- 他のスタッフの時給や支給額は見えません
- オーナーを含めて2人まで、ずっと無料で使えます
はじめてご利用の店舗は、次の締めが終わるまで無料です。カードの登録は要りません。
先に中身を見たい方は シメルンの紹介ページ へ
給与計算を無料でやる方法は3つある
まず選択肢を整理します。
「無料」と一口に言っても、中身はかなり違います。
どれを選んでも法律上の義務は下がらない、という点だけ先に押さえてください。
①Excelで自作する
いちばん多いのがこれです。
費用はかからず、様式も自由に組めます。
ただし日をまたぐ勤務でマイナス表示になる問題があり、そこを式で吸収しないと集計が合いません。
MOD関数で吸収する具体的な式は勤怠管理をエクセルでやる方法に書いています。
②無料の給与計算ソフトを使う
人数が少ない店なら、恒久的に無料で使えるソフトもあります。
例えばフリーウェイ給与計算は、公式サイトで「従業員5人まで永久無料」「期間は無制限です」と案内しています。
6人以上は月額1,980円で無制限になり、無料版には操作サポートが付かないと明記されています(2026年9月13日に公式サイトで確認)。
人数の上限は店の規模と直結するので、キャストを含めて何人まで登録できるのかを先に確かめてください。
③有料クラウドの無料枠を使う
大手のクラウドサービスにも、無料で試せる枠があります。
ただし多くは期間限定の体験版か、機能を絞ったものです。
各社とも料金体系はよく変わるので、金額と条件は必ず公式の料金ページで確認してください。
体験期間が終わったあとに有料へ移るのか、そこで乗り換えるのかを先に決めておくと、締めの直前で困りません。
3つの比べ方
| 費用 | つまずきやすい点 | |
|---|---|---|
| Excelで自作 | 無料 | 日またぎで式が壊れる。人数が増えるとファイルが散らばる |
| 無料ソフト | 無料(人数上限あり) | 上限を超えると有料。サポートが付かないことがある |
| 有料クラウドの無料枠 | 期間限定が多い | 期間終了後の移行。夜の店固有の計算に対応するか |
この表は費用の話です。
本当に効いてくるのは、次の4か所を通せるかどうかのほうです。
夜の店では無料の給与計算が4か所で壊れる
ここがこの記事の本題です。
一般的な給与計算の手順書は、日中に働く月給制の会社を前提に書かれています。
夜のお店はその前提から4つ外れているので、無料かどうかに関係なく同じ場所でつまずきます。
①日をまたぐ勤務を2日に分けてしまう
19時に出勤して翌1時に上がる勤務は、カレンダー上は2日にまたがります。
しかし労働時間の数え方はそうではありません。
また、1日とは午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいうものであり、継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも一勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とすること。
昭和63年1月1日 基発1号
2日に割ってしまうと、1日の労働時間が短く出ます。
その結果、8時間を超えたかどうかの判定が狂い、本来つくはずの時間外割増が消えます。
日をまたぐ入力に対応しているかは、無料ソフトを選ぶときの最初のふるいになります。
②深夜割増が乗らない
夜のお店は営業時間の大半が深夜帯に入ります。
使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
労働基準法 第37条4項
時給に出勤時間数を掛けるだけの計算では、この25%が丸ごと落ちます。
時間外とは別枠なので、残業がなくても発生します。
22時をまたぐ時間数を切り出せるかどうかが分かれ目で、計算の考え方は深夜手当の計算ツールで1分単位まで確かめられます。
③掛け持ちの人は乙欄・丙欄になる
源泉徴収の額は、税額表のどの欄を使うかで大きく変わります。
扶養控除等申告書を出している人は甲欄、他店をメインにしている人は乙欄です。
昼の仕事を持っているキャストは乙欄になることが多く、甲欄で計算すると徴収額が足りません。
無料ソフトが甲欄しか持っていないことがあるので、欄を選べるかを確かめてください。
乙欄の人は年末調整ができないので、その先の扱いは乙欄は年末調整できないにまとめています。
④ホステス報酬は給与ソフトでは計算できない
4つめが最も見落とされます。
キャストへの支払いを報酬として出している場合、使う条文が給与とはまったく別になります。
法第二百四条第一項第六号に掲げる報酬又は料金/同一人に対し一回に支払われる金額/五千円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額(当該報酬又は料金の支払者が当該報酬又は料金の支払を受ける者に対し法第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする場合には、当該金額から当該期間に係る当該給与等の額を控除した金額)
所得税法施行令 第322条
この金額を差し引いた残りに10.21%を掛けます。
税額表はいっさい使いません。
給与計算ソフトは給与を計算する道具なので、無料でも有料でもこの計算は入っていないのが普通です。
同じ月に給与と報酬の両方を払っている場合は控除額の調整も要るので、計算の詳細はホステス報酬の源泉徴収で確認してください。
引く金額が0円で出てきたとき、それが正しいのかどうかは税額表を見ないと分かりません。判断のしかたはアルバイトで源泉徴収されていない3つの理由にまとめています。
無料の給与計算で深夜割増を落としたときの金額
4か所のうち、金額がいちばん大きく動くのが深夜割増です。
無料で済ませた結果いくら戻ってくるのかを、具体的な数字で置きます。
前提は、時給1,500円で19時から翌1時まで、休憩なしで働いてもらった場合です。
1日あたり1,125円ずれる
| 時間帯 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 19:00〜22:00(3時間) | 1,500円 × 3時間 | 4,500円 |
| 22:00〜翌1:00(3時間) | 1,500円 × 1.25 × 3時間 | 5,625円 |
| 正しい日額 | 10,125円 | |
| 深夜割増を入れない場合 | 1,500円 × 6時間 | 9,000円 |
| 1日の差 | 1,125円 |
1日では小さく見えますが、積み上がると額が変わります。
3年さかのぼると5人で300万円台になる
| 1か月(15日出勤) | 1,125円 × 15日 | 16,875円 |
| 1年 | 16,875円 × 12か月 | 202,500円 |
| 1年・キャスト5人 | 202,500円 × 5人 | 1,012,500円 |
| 3年・キャスト5人 | 1,012,500円 × 3年 | 3,037,500円 |
3年で区切ったのは、賃金請求権の時効がそこにあるからです。
労働基準法115条の本則は5年ですが、附則143条3項によって当分の間3年と読み替えられています。
付加金が同額まで乗ることがある
未払いの割増賃金には、もう1つ別の条文がかかります。
裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者……に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。
労働基準法 第114条
37条は割増賃金の条文なので、深夜割増の不払いはここに当たります。
命じられるかどうかは裁判所の判断ですが、命じられれば未払分と同額が上乗せされます。
請求できる期限も、ただし書の5年が附則143条2項で当分の間3年に読み替えられています。
無料の給与計算でも賃金台帳の要件は下がらない
もう1つ、方法に関係なく守る必要があるものがあります。
賃金台帳です。
労働基準法108条が各事業場ごとの調製を義務づけ、記載事項を労働基準法施行規則54条が定めています。
深夜労働時間数を別に書く義務がある
記載事項の6号が、夜のお店に直接効きます。
六 法第三十三条若しくは法第三十六条第一項の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合又は午後十時から午前五時……までの間に労働させた場合には、その延長時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
労働基準法施行規則 第54条1項6号
総支給額だけを出すツールでは、この欄が埋まりません。
深夜労働時間数を数字で持っているかどうかは、給与明細の見た目より大事です。
台帳と明細をまとめて整えるなら給与明細テンプレートが使えます。
保存は当分の間3年
保存期間も押さえておきます。
労働基準法109条の本則は5年ですが、附則143条1項で当分の間3年と読み替えられています。
二次情報には5年とだけ書かれているものが多いので、原典で確かめてください。
無料のツールを乗り換えるときは、過去分のデータを取り出せるかを先に確認しておく必要があります。
明細を渡していないこと自体に罰則があります。中身は給与明細がもらえないのは違法?で整理しました。
無料の給与計算ツールを選ぶときに確かめる5点
ここまでを、選ぶときのチェックリストにします。
無料かどうかより、この5つを通せるかで決めてください。
体験版のうちに、実際の1日分を入れて確かめるのが確実です。
- 日またぎ|19時〜翌1時を1勤務として入力でき、始業日の労働として集計されるか
- 深夜の切り出し|22時から翌5時までの時間数を分けて出せるか
- 税額表の欄|甲欄だけでなく乙欄、日雇いなら丙欄を選べるか
- 報酬の扱い|給与とは別に、5,000円×日数を引いて10.21%の計算ができるか
- 人数の上限|無料で登録できる人数に、キャストを含めて収まるか
4つめまで満たすものは多くありません。
満たさない場合は、報酬の分だけ手計算を残すか、別の仕組みで持つかを決めておいてください。
手順そのものを一度通しで確かめたいときは給与計算のやり方にまとめています。
まとめ|給与計算を無料でやるときに外さない点
この記事の要点をまとめます。
- 方法は3つ。Excelで自作、無料ソフト、有料クラウドの無料枠
- 壊れるのは4か所。日またぎ、深夜割増、乙欄・丙欄、そして報酬の源泉徴収
- 報酬は有料でも解決しない。給与計算ソフトは給与を計算する道具で、所令322条の計算は持っていないのが普通
- 深夜割増の差は1日1,125円。時給1,500円・19時〜翌1時の例で、5人・3年なら300万円台になる
- 付加金が同額まで乗りうる。労基法114条。請求期限は当分の間3年
- 賃金台帳は無料でも同じ。労基則54条1項6号が深夜労働時間数の別記を求めている
- 保存は当分の間3年。乗り換える前に過去分を取り出せるか確かめる
いま使っている方法が4か所を通せているかは、1日分を手で計算して突き合わせればすぐ分かります。
明細書の記載事項と交付の時期は給与支払明細書不交付の届出にまとめています。
バックを含めた時給が最低賃金を満たすかは歩合給と最低賃金で計算しています。
シメルンが持っているのは①②だけで、③④は範囲外にしています(シメルンについて)。
この記事は条文と各社が公表している情報をもとにした一般的な整理です。
ソフトの料金や機能は変更されることがあるため、契約前に必ず各社の公式ページで最新の内容を確認してください。
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この記事で参照した一次情報
- 労働基準法(37条4項・108条・109条・114条・115条、附則143条1項〜3項)
- 労働基準法施行規則(54条1項6号)
- 所得税法(185条・186条・204条1項6号・205条2号)
- 所得税法施行令(322条)
- 昭和63年1月1日 基発1号(徳島労働局「労働時間について」に逐語の掲載あり)
- 国税庁 No.2511 税額表の種類と使い方
- フリーウェイ給与計算 公式サイト(2026年9月13日確認)

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