ツケは1年で時効になると聞いて、古い分は諦めていた。
その知識は、いまの民法では正しくありません。
飲食代のツケが1年で消えるという話は、2020年3月31日までに生じた分の話です。
改正民法が2020年4月1日に施行され、飲食料の1年の短期消滅時効を定めていた条文はなくなりました。
いまのツケは原則5年です。
この記事では、スナックが出す請求書の記載事項、ツケの時効、時効を止める方法までを条文で整理します。
読み終えたら、残っているツケが請求できるものかを確かめて、止める手を打てます。
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スナックの請求書に入れる項目
請求書の書式そのものを法律が決めているわけではありません。
ただし、相手が事業者でインボイスを求められる場合は、記載事項が条文で決まっています。
法人客の接待や、会社名義でのツケがある店は、ここを外せません。
適格請求書の記載事項は6つ
消費税法57条の4第1項が、適格請求書に書く事項を6号まで並べています。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 課税資産の譲渡等を行った年月日(一定期間分をまとめるときはその期間)
- 課税資産の譲渡等に係る資産または役務の内容
- 税抜価額または税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額および適用税率
- 消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
交付の義務が生じるのは、相手の事業者から求められたときです。
飲食店業は簡易インボイスでよい
57条の4第2項が、政令で定める事業には適格簡易請求書を認めています。
その政令が消費税法施行令70条の11で、1号に「小売業、飲食店業、写真業及び旅行業」と書かれています。
簡易インボイスは記載事項が5つになり、6号の「交付を受ける事業者の氏名または名称」が要りません。
また5号は「消費税額等または適用税率」でよく、両方書く必要がありません。
宛名を書かないレシート形式でも成立するということです。
紛らわしい表示をした請求書には罰則がある
消費税法57条の5は、適格請求書類似書類等の交付を禁じています。
適格請求書発行事業者以外の者が、適格請求書と誤認されるおそれのある表示をした書類を交付することが1号で禁止されています。
登録している店であっても、2号で偽りの記載をした適格請求書の交付が禁止されています。
違反すると65条4号により1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
登録していないなら、登録番号の欄そのものを様式から外しておくのが安全です。
スナックの請求書とツケの時効は5年
ここが実務でいちばん誤解されている部分です。
「飲み屋のツケは1年で時効」という説明が、いまも残っています。
それは改正前の民法の話です。
1年の短期消滅時効は条文ごと無くなった
改正前の民法174条4号が、飲食店の飲食料などを1年の短期消滅時効としていました。
現行の民法を確認すると、170条から174条までの条文自体が存在しません。
職業別の短期消滅時効が、改正でまとめて削除されたためです。
この改正は民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)によるもので、法務省は令和2年(2020年)4月1日から施行と公表しています。
いまの時効は166条1項
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
民法166条1項
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
店はツケが発生した日を知っているので、実際には1号の5年で動きます。
1年だと思って請求をあきらめる必要はありません。
2020年3月31日までのツケは旧法のまま
古いツケには経過措置があります。
施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。
民法の一部を改正する法律 附則10条4項
附則10条1項の括弧書きにより、施行日以後に債権が生じた場合でも、その原因である法律行為が施行日前にされたときは「施行日前に債権が生じた場合」に含まれます。
もっとも、2020年3月以前のツケは時効期間が1年であれば既に過ぎています。
いま動かす意味があるのは、施行日以後のツケです。
スナックの請求書でツケの時効を止める方法
5年あるとはいえ、放っておけば消えます。
時効を止める手段は民法に書かれています。
請求書の出し方にも関係します。
催告は6か月の猶予にしかならない
催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
民法150条
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
請求書や督促状を送ることは催告に当たりますが、伸びるのは6か月だけです。
そして2項により、その6か月の間にもう一度催告しても効力はありません。
請求書を送り続ければ時効が止まり続ける、という理解は誤りです。
相手が認めれば時効は振り出しに戻る
152条1項は、権利の承認があったときはその時から新たに時効が進行を始めると定めています。
猶予ではなく更新なので、効果が大きく違います。
一部だけでも支払ってもらう、支払う旨の書面をもらう、といった形が承認に当たりえます。
どこまでが承認になるかは事案によるため、金額が大きいものは弁護士に相談してください。
スナックの請求書で気をつける残り2点
最後に、実務で引っかかりやすい2つを挙げます。
どちらも様式を決める段階で避けられます。
あとから直すより先に決めるほうが早いです。
「代済」と書くと受取書になる
国税庁は、受取事実を証明するために請求書に「代済」「相済」「了」などと記入したものは、印紙税法別表第一第17号の受取書に該当するとしています。
請求書のつもりでも、支払済みの印を入れて渡せば領収書と同じ扱いになります。
記載金額が5万円以上なら印紙が必要です(スナックの領収書)。
客へのツケとキャストへの売掛は別
この記事で扱ったのは、客に対する飲食代の請求です。
キャストに負担させる売掛金は、風営法18条の2第1項の不相当に高額な債務の問題になりえます。
旅券や運転免許証を預かることも同項2号で禁じられています。
そちらはキャバクラの売掛金で扱っています。
なお請求書は会計の後に出すものなので、風営法17条の料金表示の代わりにはなりません(風営法の料金表示)。
まとめ|スナックの請求書で外さない点
最後に要点を並べます。
- 適格請求書の記載事項は6つ(消費税法57条の4第1項)。交付義務が生じるのは相手の事業者から求められたとき
- 飲食店業は簡易インボイスでよい(施行令70条の11第1号)。宛名が不要で、消費税額等か適用税率のどちらかでよい
- 登録していないのに紛らわしい表示をすると1年以下・50万円以下(57条の5・65条4号)
- 飲食代の1年の短期消滅時効は条文ごと削除された。現行民法に170〜174条はない
- いまのツケの時効は5年(166条1項1号)。2020年4月1日施行
- 催告で伸びるのは6か月だけ。再度の催告に効力はない(150条)
- 相手の承認があれば時効は更新される(152条)
- 請求書に「代済」と書くと受取書になり、5万円以上なら印紙が要る
ツケは1年で消えると思って帳簿から落としていたなら、いま一度確認する価値があります。
店で起きやすいトラブルを法令別に分けたものはスナック経営のトラブルにまとめています。
消費税の計算方法そのものは飲食店の簡易課税で扱っています。
8割控除は2026年10月から7割になります(インボイスの経過措置)。
預かりボトルの記録も同じ構造です(ボトルキープの期限と紛失)。
この記事は条文と公表資料をもとにした一般的な整理です。
時効の起算点や承認に当たるかは個別の事情で結論が変わるため、回収を進めるときは弁護士に、税務の処理は税理士に確認してください。
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この記事で参照した一次情報
- 民法(150条・152条・166条、および民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条)
- 法務省 民法の一部を改正する法律(債権法改正)について(施行日)
- 消費税法(57条の4・57条の5・65条)/消費税法施行令(70条の11)
- 国税庁 No.7105 金銭又は有価証券の受取書、領収書
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(17条・18条の2)

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